Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「……っ、ぅ……」
腹部に強い衝撃が走り、エミリは腹を抱えて蹲る。蹴られたことで吐き出された唾液は、顎を伝って地面に滲んでいた。
涙が零れそうになるのを懸命に堪え、オドを睨み上げる。
「君、懲りないね。そういう敵意を向けられると、鬱陶しいから諦めるまで痛めつけたくなるんだけど」
後頭部で一つに束ねているエミリの髪を鷲掴んでは引っ張り、顔を近づけてそう吐き捨てる。それでも諦めの悪いエミリは、降参しようとしない。
「……ぐっ、ぁ……」
痛みに顔を歪めながらも、オドに対する敵意だけは忘れず彼を睨み続ける。
厄介者を相手にしてしまったことにここで気づいたオドは、心底面倒くさそうに目を細めた。
「早く降参するのが身のためだよ? 僕、本当に君みたいに綺麗事だけ並べるお気楽野郎が大嫌いなんだ。虫唾が走る。女だろうが容赦なんてしないよ」
エミリの髪を放し、仰向けになるよう地面に投げ飛ばす。
「まずは、そのうるさい口を塞がなくてはね」
「あ、ぐっ……!」
その言葉通り、いきなり真上から口の中に何かを詰め込まれたエミリは、息苦しさから呻き声を上げた。
エミリの口を塞ぐのは、オドが実験で使用していた手袋。何らかの薬品に触れたものなのだろう、苦味まで口の中に広がっていた。
「ん"ん"ん"……!! んム……ん"ん"、う"っ、ぁ……」
痛いほどに震える喉が、限界を訴える。ジタバタと手足を動かしもがくが、手袋が引き抜かれることはない。それどころか、更に口の中に押し込められ、吐き気が襲った。
見開かれたエミリの目からは、涙の筋が幾つも作られる。
「口はこんなもんかな……あとは、」
エミリの口の中へ押し込んでいた手を抜いて、彼女を再び見下ろすように立ち上がったオドは、そのまま足でエミリの顔を勢いよく踏みつけた。
「ン"ン"ン"っ──!! ンん、ン"ン"……ン"あ、あ"あ"っ……!!」
割れるような痛みが脳内に響いた。上下から強い刺激がエミリを襲う。
手袋によって塞がれた口からは、くぐもった声が部屋全体に響き渡るのみだった。