Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「な、なに!?」
足元から体を覆う謎の煙にエミリは、大きく咳を繰り返す。
これは、吸ってはいけないものであると瞬時に理解したがもう遅い。
何の薬が組み込まれているのか。それを考えながら足を動かした時には、体に効果が現れていた。
「あ、れ……」
指先や足から痺れがエミリを襲う。立つことさえも苦しくなり、地面に膝をついた。
「ま、さか……これって、」
麻痺作用が含まれた薬を盛られたようだ。リヴァイと同様に体が思うように動かず、再び地面に体を預けることになってしまった。
「エミリ……!!」
遅かったとリヴァイは顔を歪め、オドを睨みつける。仕掛けた当の本人は、愉快とでも言わんばかりに不気味な笑みを貼り付け、地面に這いつくばる二人を見下ろしていた。
「エミリ、君は学習しないね。闇雲に突っ込めばいいというものじゃないのに」
「……ぐっ、」
「まあ、そんな単細胞な君のおかげで、余裕を持って実験に取り組むことができるよ。ありがとう」
嫌味ったらしく言い放ち、今度こそ背を向けて研究室へ向かうオド。
何もできない自分の無力さ、考え無しに突っ込んでしまった愚かさに呆れすら覚える。
それでも、自己嫌悪に陥っている暇はない。
「……ルル、を……はなし、て」
這いつくばってでも取り返してみせる。
薬の効果が強くなる中、荒い呼吸を繰り返しながらも手を、足を、体を懸命に動かしては、少しずつ進んでいく。
「たすけ、るって……やく、そくした、の……」
「……エミリ……おね、ちゃん……」
倒れてもまだ諦めようとしないエミリの姿に、研究員に抱きかかえられたまま、ルルは大粒の涙を流す。
もう、自分のために傷ついてほしくない。それでも、必死に助けようともがき続けるエミリが、眩しくも見えた。
「諦めが悪いね、君も」
仕方が無いと溜息を吐きながら、オドは静かにエミリのそばへ歩み寄る。そして、エミリの腹を思い切り蹴飛ばした。