Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
突然、リヴァイの腕に抱き込まれたエミリは、彼の勢いと重みと共に目を閉じて地面に背中を預けた。
発破の音が鼓膜に残る感覚に顔を歪めながら、そっと瞼を上げる。
「おい……怪我は、ねぇか?」
「……え、あっ……はい」
「そうか……ッ!」
「兵長……?」
エミリの上にのしかかる形で彼女の身を守ったリヴァイは、起き上がろうとして顔を顰める。
まさかと思い、リヴァイの体を頭から足へ目で追えば、太腿と足首から地面に流れ落ちる赤い液体が目に入った。
「兵長!?」
エミリの身代わりとなったことで、リヴァイの脚に銃弾が命中してしまったようだ。
冷や汗を流し痛みに歯を食いしばるリヴァイの様子に、エミリの胸に締め付けられるような息苦しさが襲う。
オドへと視線を向ければ、銃を手にしているのは彼ではなく研究員の方だった。
エミリと目を合わせたオドは、妖しく微笑む。
「計算通り。君を狙えば、彼はきっと身を呈して守るだろうってね。人類最強が相手じゃ、適うはずがないから」
「……っ、てめぇ」
「あ、そうそう。おまけも付けておきましたから、しばらくはそこで休んでいて下さい」
「……あ?」
彼の言葉をすぐに理解することができない。頭の回転が彼の方が早いためか、いつも置いてけぼりだ。
こちらが考えている内にも、彼は既に先のことを一つ、二つと見据えているのだろう。
彼の言う”おまけ”。それを理解したのは、リヴァイの体に異変が起きてからだった。
「……っ、なん、だ」
「兵長……?」
エミリの上から退くために手のひらを地面に着いて起き上がろうとするも、力が入らない。腕だけではない。足も腹も、全ての筋肉がリヴァイの思う通りに動かないのだ。
そのまま、エミリの上にもたれ掛かるように倒れ込んだリヴァイは、目線だけをオドへ向けて何をしたのだと問い掛ける。
「筋弛緩剤を弾と一緒に仕込んでおいたんですよ。いくら貴方でも、薬の効き目に逆らうことはできないでしょう?」
楽しげな笑みを浮かべてエミリとリヴァイを見下ろすオドが、二人には狂っているようにも見えた。そこから垣間見える彼の人間性に、吐き気すら覚えるほどに……。