Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「わかったかい? 君ら調査兵団は、僕が今までやったようなことを、何十年も前から繰り返している。でもね、僕はそんな調査兵団の方々が、誰よりも現実的で結構好きなんだ」
上品に微笑みながらオドが次に視線を移すのは、顔を俯かせるエミリの隣で鋭い睨みを効かせるリヴァイだった。
「特にリヴァイ兵士長、貴方の冷酷さは敬意に値する。きっと貴方に憧れ剣を握った兵士は多いでしょう。そんな彼らの犠牲すら躊躇わず、戦い続ける貴方のその強靭な心はとても素晴らしい」
褒めているのか貶しているのか、どちらかわからないオドの言葉が煩わしく、リヴァイは顔を歪めて盛大に舌打ちを鳴らした。
さっきから彼の言葉は癇に障る。全てを知っているかのような態度に、何度ブレードを突き刺してやりたいと思ったことか。
「……ちがう」
そこに響き渡るエミリの小さな声に、二人の視線は再び彼女に固定された。
「ちがう……違う!!」
「エミリ……?」
顔を下へ向けたまま、頭を大きく振って違うと主張を続けるエミリ。
その言葉がどんな意味を指しているのか、リヴァイにはそれがわからない。
突然の真実と予想外の現状に冷静さが欠けているエミリの思考は、リヴァイでも読み取れない状態となっていた。
「なにも、知らないクセに……」
自分の大切な仲間たちと居場所を、オドと同じと評されたことが悔しくてならなかった。
リヴァイを冷酷非情な人間と見ているだけの彼の発言が、気に食わない。
どんな想いを抱えて壁外へ赴いているのか、それを考えたことがあるのか。
リヴァイが、死にゆく仲間たちをどのよう想っているのか、考えようとしたこともないだろうに。
「……おなじに、しないで」
子どもたちをただの道具として利用しているだけの男に、
「みんなを……兵長を……」
自分の目的のためだけに、命と未来を奪うことすら躊躇わぬような人間に、
「お前と、一緒にするなァ……!!」
リヴァイや仲間たちのことを、語られたくなど無い。
谺響するエミリの叫び。声が止めば、やがて静けさが空間を覆った。しかし、それは一瞬の出来事。
「エミリ!!」
リヴァイに名前を呼ばれた。それを認識する直前、エミリの鼓膜を震わせたのは、銃声だった。