Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
咄嗟に振り向いたリヴァイの瞳に映ったのは、追いやったはずの存在。
「………………ルル……?」
胸を抑え地面に顔を伏せるルルの姿を、エミリは信じられないといった様子で凝視している。
「エミリ、お前……なぜ戻って来やがった!!」
予想外の展開にリヴァイも冷や汗を垂らす。いや、想定しておくべきだった。彼女の性格ならば、必ず戻ることを……
迂闊だったと、リヴァイは軽く舌打ちを鳴らす。
そんな上司の様子にエミリは目もくれない。彼女の目に映っているのは、苦しむルルの姿だけだった。
(…………やくそく、したのに……)
必ず助けると約束したのに、ルルを苦しませてしまった。その事実が、エミリの頭と心に強い衝撃を食らわせる。
自身に対する怒り。それが募ると同時にエミリの瞳から光が消える。
「……まって、て。いま、行くから……!!」
この時、エミリは完全に我を失った。
何も考えず、感情任せに叫びを上げ、地面を蹴る。
相変わらず、笑を絶やさずにルルのそばで突っ立っている研究員。彼に向かって、エミリは勢い良く突っ込んで行く。
「エミリ! 落ち着け!!」
しかし、エミリの正面に回り込んだリヴァイによって進路を塞がれた挙句、腕を掴まれたために前へ進むことが出来なくなった。
「兵長! 離してください!! あいつ……あいつが、ルルを……!!」
腹の底から出されたエミリの怒りの雄叫びからは、全く理性が感じれなかった。このまま行かせては本当に危険である。
暴れるエミリの肩を抑え、リヴァイも声を荒らげた。
「お前の気持ちもわからなくはねぇ……だが、このまま突っ込んでも意味ねぇだろう! 返り討ちに遭うだけだ」
「そんなの……そんなの知らないぃぃ!!」
「頭を冷やせ! エミリ!!」
「うるさい……! 離して!! 離せェ!!」
リヴァイに対し敬語を使い忘れてしまうほどに、エミリは自分を見失っていた。おそらくこのまま声を掛け続けても、今のエミリには届かないだろう。
(クソッ……仕方ねぇ)
喚き続ける彼女を正気に戻す方法、それを思いついたリヴァイは、心の中で謝罪を入れたあと、エミリの唇に噛み付いた。