Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
「今回もどうやら失敗のようで、すぐに発作を起こしてしまいました」
「…………」
苦しむ子どもの姿にも平然と言ってのけ、研究員はルルを乱暴に足元へ落とす。
体に走る痛みに呻き声を上げては地面に蹲るルル。
何故、彼ら研究員はこのようなことを何食わぬ顔で、何とも思わずに出来るのか。
苦しむルルの様を、まるで余興のように楽しげな表情で見下ろす研究員に怒りが募る。
地下街の子どもになら、こんなことが許されるとでもいうのか。
そんなはずはない。人は、誰もが皆平等に生きる権利を、幸せになる資格を持っているのだから。
リヴァイの脳裏に浮かぶのは、あまり定かではない幼い頃の記憶。
母亡き後、帽子が特徴の男に助けられ、リヴァイはその男から生き方を教えられた。
当時のリヴァイの年齢は、ルルと同じくらいに思える。
あの頃は、ただ生きることに必死だった。
力を付けること以外に、あの残酷な世界を生きる術を知らなかった。
そんな無知な自分でも、あの過酷な環境を乗り越えることができたのは、あのどうしようもない帽子の男の存在があったからである。
だが、ルルはどうだ。
母を亡くし、未来を生きる道を見失った。
手を差し伸べられたと思いきや辿り着いた場所は、地獄の入口。
人としてではなく、道具として利用され、あとはただ死ぬだけの人生。
地下街にだってそんな人間はわんさかいる。ルルやあの子どもたちだけではない。
けれど、そんな中ルルは、守ろうとしていたのだ。
その小さな体で、無いに等しい力で、運命を共にした年下の子どもたちを……
(……あいつそっくりじゃねぇか……)
大して力も無いくせに、いつも強がっては無茶ばかりするどうしようもない馬鹿で、どうしようもなく愛しい存在。
エミリとルルが、いま、リヴァイの目に重なって見えた。
顔を赤くさせて、荒い呼吸を繰り返す小さな女の子。早く発作を止めなければ、命が危うい。
まずは、ルルをこの研究所から連れ出さねばならない。
リヴァイの力でならあの研究員を捩じ伏せることなど容易い。
しかし、彼が浮かべる余裕の笑み、そこに隠されている思惑が読み取れずにいた。
間合いを取りながら、どう動くべきか頭の中を思考で埋めつくす。しかし、ある気配がそれを中断させた。