Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
数十分後、リヴァイの周りには気を失って倒れている商人たちが転がっていた。彼らをそのようにしたリヴァイは、息一つ切れてない。
人数はそれなりにあったものの、結局はその程度の実力だったというわけだ。
逆にここに居るのが、リヴァイではなくエミリだったら……そう思うとゾッとする。
やはり、彼女を連れて来なくて正解だった。
そう安堵したのもつかの間。
「相変わらず使えませんね。少しは役に立つと思って雇いましたが……この程度ですか」
突然乱入した声にリヴァイは、再び警戒を強める。
雇ったというその言葉から、とうとう奴隷商人の雇い主が姿を現したようだ。
「お初にお目にかかります、リヴァイ兵士長殿。貴方の噂はかねがね聞いております」
白衣を纏って現れた相手は、口周りに真っ白な髭を蓄えた中年ほどの男だった。
どうやら彼は、リヴァイの活躍をよく耳に入れる一人らしい。
これではフードを被っていても意味が無い。リヴァイは乱暴に外套を脱ぎ捨て、睨みを効かせる。
しかし、有無を言わさぬリヴァイの威圧感にも怯むことはなかった。
「……まさか、調査兵団兵士長の貴方がこんな所にいるとは思いませんでした……どのようにして、計画の資料を奪ったのですかねぇ……まあ、どうでもいいですけど」
リヴァイの姿と奴隷商人が倒れている光景を目にしても、飄々としている研究員に違和感を覚える。
頭が良いのだから、リヴァイがなんの目的でここにいるのかもわかっているだろうに。何故、そんなにも余裕でいられるのだろうか。
それとも、最初から妨害が入ることでも予想していたのか。
リヴァイの疑問は、深まる一方だった。
「地下街の子どもたちが、こんな形で利用されていることが、そんなに許せませんか?」
クックックッと喉を鳴らして耳障りな笑い声を零す研究員に、リヴァイは更に目を細めた。
「……ルルって名前のガキはどこにいる」
「ああ、その子どもでしたら……丁度さっき実験用の薬を投与し終えたところですよ」
そうしてリヴァイに背を向け歩き出す研究員は、ある扉の前で立ちどまり、部屋の中へ姿を消した。
数秒ほど経って出てきた彼の腕の中には、苦しそうに胸を抑えて息をする小さな女の子──ルルの姿があった。