Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
(……何だ、この扉)
見ているだけで感じる、その先にある異様な気配。嫌な予感しかしない。
この先が研究室と思っても良さそうだ。
胸糞悪い空気に苛立ちを感じながらも、リヴァイはゆっくりと腕を上げてドアノブを捻った。
ガチャリ……
扉を開け、中へ足を踏み入れる。少々乱暴に開いた扉は、重さに従って自動でリヴァイの退路を閉ざした。
扉が閉まる金属音が鳴り響くその広いひろい部屋には、見たこともないものばかりが部屋の体積を占めている。
真っ直ぐに続く道は、どこまで続いているのか検討がつかない。
そんな道成に沿って並ぶ棚には、瓶に入れられた薬品のサンプル。人間の体の一部や臓器までもが置かれ、吐き気がしそうなほどに気味の悪い空間だった。
決して綺麗とは言えぬこの空間にいるだけでも気分が悪いというのに、薄暗い証明と相まって不気味さが際立っているように思える。
思わずハンカチで口元を抑えながら、リヴァイは気色の悪い実験体らしきものの間を縫って前へと進んだ。
子どもたちは、こんな劣悪な環境に監禁され、実験台として利用されていたのかと思うと、益々こんなくだらない計画を立てた奴らに怒りが湧いてくる。
そして、同時に思った。やはりエミリを連れて来なくて良かったと。
こんな穢れた場所にいるべきではない。そして、おそらく見ない方がいい。
薬を開発するためだけに多くの命が犠牲となっているこの現場は、薬剤師を目指す彼女には、刺激物が多すぎるのだ。
(実験が行われてる場所は、どこだ……)
場所が場所なだけに苛立ちがいつもの倍に増す。さっさとルルを助けてやりたい。そして、エミリを安心させたかった。
エミリを見つけた時に感じ取った、彼女の心の声。
自分の行動や意思とは矛盾した思いが押し寄せ、とても辛そうに顔を歪めていた。あの表情は、鮮明にリヴァイの頭に残っている。
もう、あんな顔をさせたくない。
苦しんでいるのなら、自分が代わりにそれを背負っても構わなかった。
そうしてでも、エミリを守りたい。
(……これじゃあ、あのどうしようもねぇ馬鹿と同じか)
エミリの馬鹿が、とうとう自分にも感染(うつ)ってしまったのだろうか。なんて小さく笑みを零した時だった。