Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
一方、エミリと別れたリヴァイは、研究室を目指し地下層をさまよっていた。
状況を知りすぐに兵団を飛び出して来たリヴァイは、研究所内部の構造を暗記している訳では無い。逆にエミリは、迅速に行動できるよう記憶していたのだろうが、それをする時間も余裕も無かった。
何度も遭遇する分かれ道に舌打ちを鳴らしながらも進んでいく。
頼りになるのは勘だけ。警戒を続けながら、一切の音を立てず研究室を目指す。
懐中時計を確認すれば、時刻は既に9時を回っていた。
(クソッ……間に合わなかったか……)
実験開始は9時。本来なら、それに間に合うのが一番望ましかった。しかし、過ぎてしまっては仕方がない。
実験中であれば、中断させて救い出せばいいのだから。
時計を懐に戻し、リヴァイは再び足を進めた。足を前へ踏み出したその時、カチッと小さな音が耳に入る。それと共に体が少し沈む感覚が全身に行き渡り、リヴァイは思わず足元を確認した。
目に入ったのは、少し凹んだ床のブロック。何か仕掛けでもあるのかと警戒を強めるが、辺りはシン……としているだけで、どこからも気配が感じられない。
リヴァイは、恐る恐る足を引っ込めしゃがみ込み、沈んだ床に手を当て探りを入れる。
(……隠し扉か)
ブロックの僅かな隙間に爪を通し、引っ掻くように人差し指を折り曲げる。ガタリと石が擦れる音と共にブロックが浮いた。
そのままブロックを取り外し中を覗き込めば、梯子が掛けられているのが見える。おそらくだが、これが研究室へと繋がっているのだろう。
そう推測したリヴァイは、静かにブロックを置いて梯子に足を掛けた。
腕と足を動かしながら視線を下へ向けると、地に足が着くまで長さはかなりあった。
ここが地下とは思えないほどの大きく広い空間は、立体機動で飛び回っても問題などなさそうなほどだ。
ようやく梯子を下り終え、道成に従って歩いていく。
聞こえるのは、自身が歩く靴の音だけ。地下であるこの空間には、外の音が全く聞こえない。そして、人の気配も全く感じられない。
異様すぎるほど静かだった。
息を潜め先を歩くリヴァイ。そんな彼の目に映ったのは、埃の被った灰色の扉だった。