Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
ここで止めても、エミリは皆の静止を振り払って進むだろう。ならば、ハンジが紡ぐ言葉は決まっている。
「必ず帰ってくるんだ。リヴァイとその女の子、3人で、必ず……」
止めたい気持ちを必死に抑えながら外へ出したハンジの声は、とても震えていた。
そこから伝わるハンジの心情に、エミリもまた胸を痛める。それでも、得意の笑顔を乗せて振り向いた。
「もちろんです」
エミリを行かせてしまったことを、ハンジに後悔させるわけにはいかない。そのためにも必ず戻って来なければならないのだ。
「おねえちゃん……」
「エミリおねえちゃん、もどっちゃうの?」
エミリの元に集まる子どもたち。泣きそうな顔で見上げては、「行かないで……」としがみつく。
「大丈夫だよ。絶対に帰ってくるから」
「……ほんとに?」
「うん。本当!」
子どもたちの頭を一人ひとり優しく撫でては、笑いかける。
エミリの手から伝わる温もりに、子どもたちは安心したように頬を緩ませた。
「きをつけてね!!」
「ぜったい、かえってきてね!!」
「ぜったいだよ!!」
「うん! 絶対!!」
またできた約束。それを守るために、エミリはハンジや子どもたちに背を向けて走り出した。
暗闇に霞んでゆく華奢な体は、もう見えない。にも関わらず、ハンジはずっとエミリが駆けて行った霧の向こうを眺めていた。
「分隊長……子どもたちを」
「ああ、そうだね」
モブリットの声を耳に入れたハンジは、名残惜しげに目を逸らし、子どもたちの前にしゃがみ込む。
「ねぇねぇ……おねえちゃん、かえってくるよね?」
目に涙を溜めながらハンジの服を引っ張る男の子。他の子どもたちも同様に、目を擦っては必死に涙を我慢していた。
「大丈夫。きっと、大丈夫だよ」
その言葉は、暗示。それは子どもたちだけではなく、ハンジ自身にも向けられたものだった。
祈ることしかできない自分の無力さに、ハンジは唇を噛み締める。やはり、共に行くべきだったのかと後悔が押し寄せてくるが、もう遅い。
(全く、君のお守りは大変だよ……)
そんなハンジの言葉に含まれていたのは、エミリに対する確かな愛情だった。