Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
「…………ごめん、なさい……」
エミリの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「ごめ、なさい……」
掠れる声。瞳から溢れる大粒の雫は、ハンジのジャッケットを濡らしていった。
大切な誰かを失うことの恐怖、それは何度も感じてきたはず。
それなのに、自分の勝手な都合でそれをハンジ達に与えてしまった自分の浅はかな行動に、エミリの心に後悔が押し寄せる。
「……ごめんなさい、ハンジさん……ごめんなさい……!!」
ハンジの背中に腕を回し、子どものように泣きじゃくるエミリ。
ハンジは、そんなエミリの体を更に強く抱き締め返した。
抱き合う二人の関係は、上司と部下などという簡単なものではない。お互いがお互いを、それ以上の存在だと思っている。
だから、ハンジは上司であることを忘れてエミリを抱き締めることができる。エミリも、部下であることを忘れてハンジに甘えることができるのだ。
「……ごめん、なさ……ごめ……」
大きな過ちを犯した幼い子どもが、母親に許しを乞うため、大泣きしながら何度も謝り続けるのと同じ。
エミリも頬を濡らしながら、「ごめんなさい」と繰り返す。
「…………エミリ、何度も言うよ」
エミリの肩に手を置いては距離を開き、彼女としっかりと目を合わせ、ハンジは想いを伝えていく。
「私たちには、君が必要なんだ。こんなに怒っているのも、心配して駆けつけるのも、君の気持ちを尊重して皆が動いているのも……全部理由は、皆、エミリのことが大切で、大好きだからだ」
両手で包み込むようにエミリの頬に手を置いては、子どもに叱りつけるように言い聞かせる。
「……君が無茶をすることで、どれだけの人間が悲しむと思っている?
エミリ、君は、人々の幸せと笑顔を守るために兵士になったんだろう? なら、まずは自分を大切にするんだ」
「……自分、を?」
「そう。皆を幸せにしたいのなら、まずは……君自身が幸せでいてくれ」
それならば、エミリを取り巻く周りの人間も、笑顔でいられる。
どうか、それをエミリにわかってほしい。
ハンジは強く心で念じ、目で訴えた。
自己犠牲は、誰も救われることなど無いということを……