第21章 黒幕

痛みでひりひりする頬を押さえ、エミリは恐る恐るハンジの顔を見上げる。瞳に映るハンジの表情にエミリは、ズキっと心が痛むのを感じた。

怒りの中に今にも泣きそうな顔を見せるハンジ。いつもおちゃらけてばかりの上官の姿はなかった。


「それは、何に対する謝罪だ。君は、私がなぜ怒っているのか……ちゃんと理解しているのか」

「えっと……」


思わず後ずさってしまいそうになるほどの圧力に、エミリは言葉が出てこなかった。

迷惑をかけたから。その様な理由でないことはわかる。エミリもそこまで鈍くはない。


「……勝手な行動を、したからでしょうか」


誰にも相談せずに1人で勝手なことをしてしまった。そのことに対して怒っているのだろうか。

素直にハンジの質問に答えるも、それは、当たらずとも遠からずといったところだった。


「はぁ……とりあえず、一番して欲しくない回答じゃなくて良かったけど……やっぱり理解していないようだね」


さらに低くなる、ハンジの声。そして、垂れ下がっていたハンジの腕が、エミリの方へ伸ばされる。また平手打ちを入れられるのではないかと、エミリはぎゅっと目を瞑った。

その瞬間、鼻に擽る香りにエミリは体を硬直させ、ゆっくりと瞼を上げた。


そして、ハンジに抱きしめられているのだと理解する。


「私は……1人で抱え込んで、私たちを頼らなかったことを怒っているんだ。
どうして君は、いつも1人で……もしかしたら、死んでいたかもしれない」


そう言って、エミリを抱きしめる腕を強くしては、胸の奥底からこみ上げる激情を必死で抑え、言葉を紡いでいく。

そんなハンジの声は、体は、震えていた。それは、エミリを失うかもしれないという恐怖からだ。


「お願いだから、無茶なことはやめてくれ。私の前から、いなくならないでくれ」

「……ハンジ、さん……」


すがるようなハンジの声に含まれていたのは、怒気などではない。
体の震えとともに送られたその言葉は、声は、とても弱々しく、頼りないものだった。