Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
「ペトラなら兵舎で待ってる」
「兵舎で……?」
「待つって、お前に約束したから、兵舎で待つんだとよ」
ペトラの思いを代弁するのは、不貞腐れた顔のオルオだった。
帰ったらきっとペトラにどやされる。怒った顔でバカと言われ、なんでまた1人で無茶をしたんだと泣きそうな顔で怒鳴られるに違いない。
ペトラは、待つことの辛さを分かっていて、それを自分に押し付けたエミリのことを「ズルい」と言い、きっと最後は「無事でよかった」と抱きしめてくれる。
アメリも同じ。いつものように「しょうがないなぁ」と苦笑を浮かべ、そして、「それがエミリらしい」と気持ちを受け入れてくれるのだろう。
ペトラとアメリがそうしてくれることをわかっていながら、彼女たちに何もさせないよう仕向けた自分は、本当にズルい人間だ。
それでも、2人を巻き込みたくなかった。
手を汚す時が来るかもしれないと、予感していたからだ。
(でも、まだ安心していられない……)
ルルを救出できるまでは、気を抜いてはいけない。
子ども達を抱え走りながら、エミリはこの後どうするかについて考えていた。
そうこうしているうちに、森の出口が見えてきた。そして目に入ったものは、並んで停められている数台の荷馬車とハンジ班の班員たちだった。
「……ハンジさん、皆さん」
子どもたちを地面に下ろし、眉を寄せるハンジたちと向き合う。
表情を見てすぐに、怒っているのだと察した。
それは、きっとエミリが勝手な行動をしたから、なのかもしれない。
ハンジから目を逸らしながらも、彼女の前へ歩み寄る。そして、深々と頭を下げた。
「……すみ、ません」
そのたった一言を声に出すことすら困難なほど、エミリの心には罪悪感が溢れていた。
胸に込み上げる後ろめたい気持ち。エミリの声も体も、小さく震えていた。
何年ぶりだろうか。怒られるのが怖い、と感じたのは……
「エミリ」
低い低い、ハンジの声。名前を呼ばれただけで、ゾクリとエミリの身体に鳥肌が立つ。
ゴクリと固唾を呑んで、エミリはゆっくりと顔を上げた。
バシンッッ
その瞬間、響き渡る乾いた音。
引っぱたかれたと気づいたのは、頬の痛みを感じてからだった。