Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第21章 黒幕
何分経ったかなどわからない。暗い森の中を、目を凝らしてただ進み続けるだけの時間が、精神を追い詰める。
生憎、灯りとなるものは何も持ち合わせていない。研究所から、役立つ物でもくすねてくるべきだっただろうか。
どちらにせよ、そんなことをしている時間などエミリたちには無かった。
ほぼ何も見えないと言って良いほど、暗闇に包まれた森の中。
風、木々の揺れ、虫の鳴き声、鳥の羽音、自然と生き物たちが奏でる音楽は、不気味で仕方がない。
追い詰められる心。恐怖を振り払い、前を向いて進むが何も見えない。
今、森のどの辺りを走っているのかすらも、わからない。
上昇する心拍数。
流れる冷たい汗。
荒くなる呼吸。
不安と恐怖から、心と共に体も悲鳴を上げているようだ。
(……出口は、まだなの?)
終わりのない、迷宮に迷い込んだかのような錯覚に陥る中、理性を保ち足を動かす。
そんなエミリの耳に、ビュッと何かが通り過ぎる音が入った。
思わず足を止め、子どもたちを抱き寄せる。
(……何なの?)
明らかに野生の動物などではない気配に、エミリは更に警戒心を強めた。
そして、目の前にタンッと何かが着地する音が聞こえた。
土を踏む音、ぶつかり合う金属音、風になびく布の音、聴覚からの情報だけでは、正体を見破ることができない。
「……誰!?」
エミリは、ナイフを手に持ち謎の人影へ向けて声を張り上げた。
「ったく、誰じゃねぇんだよ。とに、周りを振り回す天才だよな、お前って」
「天才だ? ただの馬鹿野郎だろ!!」
思いきり聞き覚えのある声にエミリは、一瞬、呼吸を止め、そして、目を見開いた。
「……フィデリオ、オルオ」
幼なじみと親友の声。なぜ、ここにいるのか。そのような疑問が湧き上がる。しかし、それもすぐに消えた。
リヴァイと同じく、資料の内容を知り、駆けつけに来てくれたのだろう。
暗闇の中、うっすらと見える2人の面倒くさそうな顔を見て、訳を察した。