Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
腹の底から叫んだエミリは、荒い呼吸を繰り返しリヴァイの服を強く握っていた。
酷いことを、言ってしまった。
それでも、関わって欲しくなかった。
それは、巻き込みたくない気持ちと、そして、誰かを傷つける自分の姿を見てほしくないから。
葛藤、苛立ち、不安、焦り……様々な感情がエミリの心を支配し、彼女から冷静さを奪っていく。
それに対抗できるほどの精神は、今のエミリには無かった。
実験開始まで、残り13分。
こんな所で油を売っている暇はないというのに……
(…………行かなきゃ……)
未だにエミリの体を離さないリヴァイ。もう一度、離してもらうよう訴えなければと、エミリは重たい頭を上げようと身じろきした。
「勝手に無関係にするんじゃねぇよ」
再び降ってきたリヴァイの声に、エミリは呼吸を止めた。
上司だから、と無理やり理由をこじつけようとするつもりなのだろうか。息を潜めてリヴァイの言葉を待つ。
「……俺がお前をわざわざ追ってきた理由は、二つある。一つは……俺もあのガキ共と同じ、地下街で生まれ育ったからだ」
「……え」
予想していなかった真実に、エミリは思わず顔を上げた。
真剣な彼の瞳を見ればわかる。その話は、冗談などではないと。そして、エミリを落ち着かせるための嘘でもない。
「……兵長が、地下街の……?」
「ああ、そうだ。だから、放っておけなかった。それが理由だ。そして、もう一つは……」
腕の中でリヴァイの瞳としっかり目を合わせて、彼の言葉に耳を傾けるエミリ。そんな彼女の頭に優しく手を添えて、答えた。
「さっき、お前が言ったことをそっくりそのまま返してやる」
「えっ」
「俺も、お前を助けたいだけだ」
「……っ!?」
優しい口調で紡がれるその言葉は、エミリの涙腺を崩壊させるのに十分だった。