Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
エミリが、幼い頃から大好きだった魔法の物語。
魔法を夢見て、主人公のミリアという女の子に惹かれ、そして、エミリには他に憧れを抱いていたものがあった。
それは、主人公・ミリアが想いを寄せる、リュディガーという歳上の男の子だ。
他人に無関心なリュディガーは、ミリアの明るさと優しさに触れ、次第に彼女に惹かれていく。
そんな彼は、ミリアが一人泣いていると、彼女の元に駆けつけてくれる、まるで王子様のような存在だった。
リュディガーの様な素敵な男性が、いつか自分を迎えに来てくれたら。そう願っていた頃がエミリにもあった。
しかし、それは人間の手によって生まれた、ただの作り話。現実で起こるなんてことが、あるはずがない。
(…………そう。そんな上手い話が、この残酷な世界であるはずが……)
無い、と言いたいのに言い切れない。
その理由は、今エミリを強く抱き締める存在がいるから。
自分を包み込む温かい体温に、安堵から涙が溢れ出しそうになる。それを必死に堪えながら、エミリは震える唇で声を絞り出す。
「やめて、下さい……はなし、て」
「あ? 離すわけねぇだろう」
「離して下さい!!」
「駄目だ。解放すりゃあ、お前はまた一人で行っちまうだろうが」
「あ、当たり前です……!! これは、私が始めたことなんですよ!?」
今更、隠すつもりも無い。かと言って、これ以上リヴァイに迷惑をかける訳にはいかない。
「私の勝手な我儘に……誰も巻き込めません!!」
さっきまで、あんなにも誰かに縋っていた癖に相変わらず口だけは達者だと自分自身に呆れながらも、リヴァイを巻き込みたくなくて、素直な気持ちを隠す。
「私は……ルルと子どもたちを助けたいだけなんですよ!? そこを通して!!」
力を貸してほしい……
「大体、兵長には……関係ないことじゃないですか。だから……」
……本当は、隣にいてほしい……
「だから、私のことは放っておいて下さい!!」
あなたがそばに居てくれれば……私は……
「……お節介で、迷惑なんですよ!!」
わたしは……私らしい、わたしのまま強く在れると思うから。