Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
「もう終わりか?」
冷たい瞳で見下ろされ、少しそれに怯んでしまう。降参するしかないのだろうか……
悔しさに爪が食い込むほど拳を握る。そんなエミリの瞳に映るのは、不安げな表情でエミリを見守る子どもたちの姿だった。
(…………ルル……)
そして、脳裏に浮かぶ小さな女の子の姿。
(ごめんね、ルル。私、約束したのに諦めようとしてた……)
どんなに適わなくても、先へ進むためにはリヴァイを説得させなければならない。
ルルの存在が原動力となったエミリは、再び立ち上がり、リヴァイと向き合う。
「……まだ、です」
痛みで悲鳴をあげる体に鞭を打って、一歩を踏み出す。
ふらりと体が傾く感覚に耐え、足を踏ん張り再びリヴァイへ突進していく。
(ったく、何でお前は……)
死なせたくないから、まだ近くに居て欲しいから、想い人を傷つけてでも止めているのに、どうしてエミリは諦めてくれないのだろう。
彼女の諦めの悪さは、こういう時にはリヴァイにとって都合の悪いものだ。
痛みに顔を歪めながら、突っ込んでくるエミリ。リヴァイはさっき拳を受け止めた時と同じように腕を前へ出し、そして、彼女の体を抱きとめた。
腕の中に閉じ込めた途端、硬直するエミリの体。何が起きたのか、わからないといった様子だった。
「…………あの、兵長? なにして……」
「協力してほしいくらい言えねぇのか、お前は」
「えっ」
耳元で囁かれるリヴァイの言葉。未だに状況が理解できていない中、それは焦るエミリの心に一直線に貫いた。
「なに、が……」
「お前はいつも突然だ。橋を飛び下りた時も、あの時どれだけ俺が肝を冷やしたかわかってんのか」
「そ、それは……すみ、ません……」
「一人で抱え込もうとすんな。何かあればすぐに俺を頼れ」
リヴァイの腕に力が込められ、エミリは少しだけ苦しくなる。だけど、そうなるのは本当に強く抱き締められているから、なのだろうか。
さっきからうるさいこの心臓の音は、一体なにが切っ掛けで動いているのだろうか。
エミリには、それがわからなかった。