Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
「ルルという女の子が、実験室に連れて行かれたそうです……」
リヴァイは、咄嗟に時計を確認した。針が示すのは、45分。実験開始まであと15分しかない。
それまでに助けることができなければ、ルルは実験台として利用される。
なんとしてでも、それを阻止しなければならない。
「兵長、お願いですから、通してください……」
そう言いながら、リヴァイの隣を通り抜けようとするも、手首を掴まれ、先へ進むことができない。
「……なんで、止めるんですか……」
「お前を行かせないために決まっているだろうが」
進もうとしてもリヴァイの手が手首から離れてくれない。
エミリは、ギリッと歯軋りを鳴らし、勢い良くリヴァイの顔を見上げた。
「兵長、あなたが上司として私を止めるのなら、私は今ここで兵士を辞めます!」
そう言ってエミリが取り出したのは、一枚の封筒。それは辞表だった。
兵団に迷惑をかけてしまうのならば、と用意しておいた辞表である。自分が兵士で無くなれば、それこそ兵団全体に迷惑をかけずに済む。
もっと早くこうしておけばよかったのかもしれない。しかし、できなかった。それは、兵士を続けたいという思いがエミリの中に強く存在していたからだ。
それも、ここで終わる。子どもたちの為にエミリは、兵士をやめることを決意した。
「……受理してください」
取り出した辞表をリヴァイに突きつける。さすがに予想していなかったのか、リヴァイは驚いた様子で辞表を凝視した。
険しい表情でそれを受け取ったリヴァイは、その瞬間、辞表を破り捨てる。
「なっ……何を!?」
「お前に兵士を辞めさせるつもりはねぇし、先を通すつもりもねぇ」
無表情で淡々と述べるリヴァイ。
どうしてそこまで頑なにエミリを先へ行かせることを拒むのか、理由はわからない。
しかし、エミリにはそんなリヴァイの理由なんてどうでもいいのだ。子どもたちを助けられるのなら、それでいいというのに……
「そんなにここを通りたきゃ、俺を倒してみろ」
挑発するようなその言葉にエミリは、強く拳を握った。
人類最強に力で叶うはずがないと分かっていてのその言葉は、あまりにも卑怯だ。
それでもエミリは腕を振り上げ、足を踏み出した。