Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
研究所内に足を踏み入れたエミリは、静かに廊下を進んでいく。
音も何もない空間。そこに自分の足音だけが響き渡る感覚は、相変わらず奇妙だ。
いつもと比べて早い鼓動。息が詰まりそうになるも、周囲の警戒を続けながら進んで行く。
「実験は何時からだって?」
突然聞こえた声に心臓が跳ねる。近くの棚の後ろに隠れ、そこからそっと覗き込む。
目に入ったのは、白衣を着用した数人の薬剤師らしき者がいた。彼らもまたここの研究員なのだろう。
「21時から開始だそうだ」
「わかった。なら、準備を──」
彼らの会話に耳を傾けながら、エミリは時計を確認する。現在の時刻は、20時23分。実験開始まで、あと約30分以上もあるが、急がなければならない。
ここでようやく催眠ガスの出番だ。
あの研究員らに見つかれば、また騒ぎになって子どもたちの救出が困難になる。
片手に催眠ガス、もう片方の手には自作の煙玉を持ち、素早く廊下に出たエミリは、ガスの栓を抜いた。
プシューという音と共に、白い煙が廊下に広がる。
「な、何だ!?」
催眠ガスに気づいた研究員たちは、混乱した様子で身の周りに漂う白い煙に意識を向ける。
エミリはその隙を見て、自分の姿が見破られぬように煙玉を地面に叩き、ハンカチで口と鼻を覆いながら距離を取った。
5分後。一旦、裏口の外で身を潜めていたエミリは、催眠ガスの効果が十分に行き渡ったことを確認し、そのまま子どもたちが閉じ込められている地下を目指し、再び走り出した。
廊下を走り、階段を駆け下りる最中、催眠ガスによって眠り込んでいる数十人の研究員とすれ違った。
どうやら、エミリが持ち込んだ催眠ガスは、広範囲での使用が可能のようだ。
研究員たちが眠ってくれているお陰で、予想よりも早く地下の入口へ辿り着くことができた。
ドアノブを捻り、扉を押し出し中へ足を踏み入れたエミリは、子どもたちの元へ駆け寄った。