Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
催眠ガスの準備を終えたエミリは、それを手に正門を超えて、裏口の方へ回った。近くの叢に身を隠し、様子を伺う。
扉の前に二人の警備。両手を後ろで組んで立っている。まずはあれを突破しなければならない。
(……ガスは、使わない方がいいかも……)
催眠ガスを足元に置き、エミリは肩に掛けてある細長い鞄を下ろして中に手を突っ込む。
取り出したのは、銃。しかしそれに装填されているのは、銃弾ではない。
催眠薬を塗った針が仕込まれている。銃自体も針を飛ばせるように技術班に改良してもらったものだ。
この銃は、元々対巨人用のサンプルとして作られていた。これを提案したのは、エミリ本人。
そのため、管理は全てエミリに任されている。しかし、このようなことに使ってしまえば、もう管理から外されてしまうだろう。
睡眠針を装填し、まずは警備員二人のうち一人に狙いを定める。
中身が違うとはいえ、銃を人に向けるのは訓練兵時代以来だ。
憲兵や駐屯兵は、銃を使用することもあるが、調査兵の敵は外。立体機動装置しか使わない。
久々の狙撃。それに冷や汗を一筋流し、エミリは引き金を引いた。
静かな音と共に空気が揺れる。その僅か数秒後、警備員の一人が体をふらつかせて地面へ倒れ込んだ。
「お、おい! どうした!!」
突然倒れた相方に駆け寄るもう一人の警備員。
今度は彼に狙いを定めて撃った。
相方の背中を揺すっていた警備員も、事切れたように倒れ込む。
これで暫くは目を覚まさないだろう。
安堵の息を吐き、銃を肩に掛け直したエミリは、再び催眠ガスを手に立ち上がった。
念の為、警備員が眠っていることを確認。そして、二人を近くの箱の中へ入れて証拠を隠滅する。
(……なんか、私の方が犯罪者みたいじゃない)
犯罪者からルルたちを助けるつもりが、やっていることは相手と同じように感じられ、なんとも複雑な気分だ。
ギスギスする思いを抱えながら、エミリは裏口から研究所内へ足を踏み入れた。