Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
『絶対に助けに来るから、待ってて』
『うん! おねえちゃんのこと、まってる!』
涙で濡らした瞳でエミリを見上げるルルたち。
もう、汚い人間の都合で子どもたちを利用させるわけにはいかない。
そして何より、嘘つきにならないためにも、必ず約束を守らなくてはならない。
信じてくれているのだから……
エミリは、心が痛むのを感じながらルルたちから背を向け、入ってきた扉の丁度真向かいに設置されている別の扉から出て行った。
長く続く廊下を全速力で走り、階段を駆け上がり、裏口から外へ飛び出たエミリは、そのままシーナの壁を超えるために森の入口を目指して、ただがむしゃらに走り続けた。
目の端から零れる涙。
荒くなっていく呼吸。
締まるような胸の痛み。
体が悲鳴を上げても、エミリは足を動かした。
それからエミリは、ルルたちを救出するための計画を立てた。
次の実験日は10日後。それがタイムリミットである。
助けに行きたい気持ちはあったが、ギリギリまで粘るべきだと判断した。
丁度良いタイミングで、今はファティマから危険薬物の扱い方や作成法について学んでいるため、それを武器にアジトに乗り込む作戦を考えた。
薬剤師に対し、薬で対抗するという部分にリスクは多少あるものの、格闘術以外にこれといって優れた能力はない。
ならば、少しでも慣れているものをお供にさせた方が良い。
立体機動を使用するのも一つの手だが、それでは兵士だとバレてしまう危険性が高いため却下した。
そう、今回のこの計画は、一歩間違えれば調査兵団自体に迷惑を掛けてしまう。
それを防ぐためにも、ルルたちのことは一切伏せていた。
自分でもとんでもない無茶をしていることは、わかっている。
兵団に迷惑をかけるかもしれない、その可能性に心だって痛む。
これは、とても大きな賭けだ。それでも、行くと決めた。約束したのだ、必ず助けると。
自分の中から大切なものを失う覚悟だってできた。
その覚悟も踏まえた全ての準備が、ようやく実験日当日に揃ったのだ。
だからエミリは、いま、奴らのアジトの前にいる。