Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
結果、ルルは実験台としてこの研究所に連れられてきたのだろう。
そして、初めてそこで自分が道具として扱われることを知った。
この時、大きな絶望の渦がルルを取り囲み、逃げられぬよう大きな柱のように伸び、ルルを封じこめたのだ。
そんな場所は、王都の地下街と何ら変わらない。人間の欲望が渦巻く冷たい空間だ。
『…………わたしね、やっぱりお外に出ちゃいけないのかなって。おかあさんにね、知らない人について行っちゃだめって言われてたのに、その約束やぶったから……ばつなのかなって』
小さくか細い声で、一生懸命にエミリに自分の気持ちを伝える姿は、何故だかとても大人びて見えた。
『だから、このままでいいの』
ニコリと微笑んで見せるルル。
その笑顔にまたエミリは、涙腺が緩むのを感じた。
『お姉さん、わたし、お日様を見るのがゆめだったんだ』
『おひ、さま……?』
『うん! おかあさんにおしえてもらったの。とっても大きくて、あかるいんだよって!!
わたしね、少しだけだけど、お日様見れたんだよ!!』
ここへ連れられてくる途中で見たのだろう。青い空の上で輝く太陽の姿を……。
『ゆめをかなえられるって、とってもすごいことなんだよって、おかあさんに教えてもらったの! わたしね、お日様を見れたんだよ!
だから、わたしのゆめは、もうかなったの。すごいことが、あったの。だから、わたしはもう良い子にしてなきゃ……』
ルルは、鉄格子を握るエミリの手に自分のそれを重ねて、顔を上げた。
『ワガママ言ったら、またバチがあたっちゃう。それにね、地下街にいたときよりも、おいしいごはん食べれるの。
だから、ぜいたくだなあって』
本当にルルは、5歳の子どもなのだろうか。そう思えてしまうほど、しっかりとした考えと意思を持ち、エミリに向けて話している。
ルルをそうさせたのは、周りの環境。地下街という劣悪な場所に生まれ、更に実験台として利用されることで、ルルの中に大きな影響を与えているのだろう。