Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
『……ご、ごめんね!! なんで涙なんか』
慌てて目元に浮かぶ雫を指先で払い落とし、笑顔を見せる。
(泣きたいのは私じゃない。この子たちなのに……)
気をしっかりと持たなくてはと、小さく深呼吸をしてもう一度ルルたちに向き直る。
眉根を下げて不安げにエミリを見つめるルル。同じように、エミリもルルを見つめ返した。
『……出よう。ここから』
『えっ……』
『私と一緒に、皆でここから逃げよう!』
鉄格子を掴み、エミリはルルと後ろで固まっている子どもたちに向かって力強く発した。
ルルは、大きな丸い目を更に大きくさせて驚いている。
当然だろう。ここから逃げ出そうなんて、思ったことなど無かったのだから。
『……むり、だよ』
『どうして、無理だと思うの?』
『だって、わたしたちね、いっぱい……ぜいたくしたから』
『は?』
ぜいたく、とは贅沢のことだろうか。
ルルの言っていることがあまり理解できず、エミリは思わず気の抜けた返事をしてしまった。
『何で、贅沢だなんて……』
どう見ても、贅沢しているようには見えない。むしろ、もっとルルたちは我儘を言ったって構わないくらいだ。
『わたしたちね、地下街から来たの』
ルルが地面に視線を落としながら、ポツポツと話し始める。
『わたしのおかあさんはね、ずっとずーっと前に病気でもういなくなっちゃったの。だからね、わたし、ごはん食べられなくて、すっごく苦しかったの』
母親を亡くし、一人ぼっちとなってしまった幼いルルには、家事などまだ早い年齢だ。
一人で暮らしていけるような力など無かった。
だから、飢えに苦しみ続けていたのだろう。
『わたし、おなかがすいて……もう、辛いなって思ったときにね、おじさんが来て、わたしに言ったの』
"今の君のように苦しんでいる人たちが、世の中には沢山いるんだ。だから、その人を助ける手助けをしてくれないか? もちろん、君のことは、おじさんたちが守ってあげるからな。だから、一緒に地上へ行こう"
その言葉にルルは、おじさん──人身売買の人間に差し出された手を取ってしまった。