Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
『ルルちゃん、か。素敵なお名前だね! 私はエミリっていうの。実は、ちょっとここに迷い込んじゃってね、偶然、君たちのことを知ったから探しに来たの』
子どもたちの目を見ながら、事実を口にしていく。子どもはとても敏感だから、下手に誤魔化すよりは良いだろうと感じた。
子どもたちに、エミリはこの研究所の従業員では無いとわかってもらう為だ。
『それで……誰かのためにってどういうことかな?』
『……あのね、お医者さんが言ってたの。わたしたちは、病気の人たちをなおすためにいるんだって』
『治す、ため……?』
純粋な瞳で真っ直ぐとエミリを見つめながら、ルルは実験者に教えられたことをそのまま口にする。
誰かのために、そんな理由を作って子どもたちを騙す薬剤師たちが、許せなかった。
子どもなら、嘘を言っても気づかない。そう感じたのだろう。
幼い子どもたちに対し、平気でそのような嘘をついては従わせようとする薬剤師たち。
何故、こんな奴らが薬剤師なのだと怒りが沸いた。
(……だけど、本当にそいつら馬鹿なやつばっかりなのね)
ルルたちの目を見ればわかる。
この子たちは、自分が実験台として利用されていることを、しっかりと理解している。
その上で、奴らの実験を受けているのだ。
それは、自分たちの力では到底叶わないことを知っているから。
そして、自分たちの命で見ず知らずの人間を助けられるなら、それで良いと無理に納得させているのだろう。
未来を諦めるしかない子どもたちにとっては、その自己犠牲こそが存在価値、存在意義とさせるしかないのだ。
(この子たちは、今までどんな思いで……)
この檻の中で過ごしていたのだろうか。
きっと想像を絶する痛みや苦しみを抱え、生きてきたのだろう。
為す術なく、汚い大人たちの言いなりとなって、ただ自分の死を待つのみの人生。
それは、果たしてこの子たちにとって、"生きる"と言えるものなのだろうか。
エミリは、膝の上で強く拳を握った。
『……エミリ、お姉さん? どうして、泣いてるの?』
『えっ』
ルルの心配そうな顔。それがボヤけて見えるのは、ルルが教えてくれた通り、エミリの瞳から涙が流れているからであった。