Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
扉の向こうは、さっきの資料室のような個室ではなく、大広間となっていた。
地下の階に造られているこの部屋は、窓から月の光が入ることはない。もちろん、昼は太陽の光が射すこともない。
その代わり、いくつもの蝋燭によって部屋の明るさが保たれていた。
『…………だれ?』
部屋の中央へ突っ立っていると、幼く小さな声が静かに響き、エミリの鼓膜を震わせた。
はっとしてそちらへ視線を寄越せば、そこには檻の中で身を寄せ合い、じっとエミリを見る子どもたちの姿があった。
(…………あの子たちが……!)
エミリは駆け足で檻の前へ駆け寄り、そして、子どもたちの視線に合わせてしゃがみ込む。
歳は、3歳から5歳前後のようだ。おそらく、エミリに声を掛けた、短髪の女の子がこの中で最年長なのだろう。
次に子どもたちの身なりや環境に注目する。
ボロボロの服を身にまとい、近くには数枚の毛布が乱雑に置かれているだけ。
そこには、布団も食料も水すらも置かれていなかった。
しかし、子どもたちの体型は、エミリが思っていた以上にふくよかだ。食事はしっかりと与えられているのだろう。
(実験のため、か……)
栄養不足の者に薬を与えても、余計に悪化させるだけだろうし、効果だって確認できないだろう。
逆に実験内容によっては、それに合わせて実験者がわざと子どもたちの体調を崩させている。そのようなことも、資料に記されていた。
よくもこんな小さな子どもたちに、そんなことができるものだ。
『……お姉さん、だれ?』
子どもたちを観察していると、その行為に対して不安を感じた最年長らしき女の子が、エミリに再び声をかける。
『あ、ごめんね! じっと見ちゃって……!』
『…………お姉さんも、だれかのためにルルたちのとこに来たの?』
『ルル……それが、君の名前?』
『うん。そうだよ! わたしのおなまえなの!』
エミリが、女の子を名前で呼んであげると、ルルは嬉しそうな笑顔を見せる。
名前で呼ばれることが、あまり無かったのだろうか。そんな違和感を感じながらも、エミリは質問を続けた。