Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
王都の夜空の下、鬱蒼と生い茂る木々を掻き分け、素早く静かに暗い暗い森の中を駆ける少女が一人居た。
茶の髪を後ろで高く束ね、半袖の黒シャツと膝上ほどの短いズボンを見にまとい、腰には小さなナイフを携え、膨れたリュックを背負っている。
その少女──エミリが目指す場所は、森の奥にひっそりと建つ廃れた研究所であった。
(そろそろ、催眠ガスの準備かな……)
森の中と研究所内の地図を確認したエミリは、木の影に隠れてリュックを下ろした。
彼女が現在いる場所は、研究所前の正門。そこを通り抜けるのは、これで二度目となる。
(……あの時の約束、絶対に守るから)
その心の声は、誰に向かって発したものなのか。それは、研究所で監禁されている子どもたちへ向けた言葉だった。
催眠ガスを準備する手を動かしながら、エミリの記憶は10日前の雨の日に遡る。
雨宿りできる場所を探し、偶然見つけたのがこれから向かう研究所だった。
その日、エミリがそこで見つけた一つの資料。
『…………えっ……ちょっと、待ってよ。なに、これ……』
それに記載された内容を目に通したエミリは、信じられない事実に、ただその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
強く降り続ける雨音と雷鳴など耳に入らないほど、この時、エミリは動揺していたのだ。
子どもたちが、新薬開発のための道具として利用されている事実。それも、この計画を行っているのは、薬剤師の資格を持つ人間だった。
こんなにも恐ろしい計画を見つけてしまったエミリは、このまま見て見ぬふりなどできるはずがなかった。
冷や汗が大量に流れ、雨に濡れた服が体温を奪って行く。逸る心臓が、エミリを追い立てていた。
(…………だ、め……立ち止まってる、場合じゃない)
気をしっかりと持ち、資料を鞄の中へ仕舞ったエミリは、棚を漁って研究所内や敷地の地図を探る。
そして、数枚にまとめられた地図の紙を見つけたエミリは、火を近づけ子どもたちの監禁場所を探した。