Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
「どうやら、ファティマ先生の講義内容に組み込まれていたらしい」
そう言ってハンジは、ケイジから手渡された別の資料をペラペラと捲りながら、事実を明らかにしていく。
ハンジが見ているのは、エミリが自分で管理しているスケジュール。そこには、ファティマから受けた授業の講義内容も記されていた。
しかし、まだ疑問は消えない。次に出てくるのは、何故そのような知識をファティマがエミリに教えているのか、ということである。
その疑問を察したハンジは、再び口を開いた。
「……ファティマ先生が、エミリに教えるべきと判断したんだろう。ああいう危険薬物は、巨人の実験にだって使えるだろうからね。それを考慮してのこのカリキュラムだと思う」
かつて、エミリは言っていた。
薬を使って巨人の実験をしてみたい、と。薬は、巨人に効果があるのかと。
そのような実験をするのであれば、催眠薬や毒薬といった危険薬物の作成に関する知識が必要だと考え、ファティマに掛け合っていたのだろう。
そして、もう一つ。
以前ファティマは、何度もエミリに言い聞かせていた。
兵士のまま薬剤師を目指せば、いつかとてつもなく大きな壁にぶつかる、と。
ファティマがエミリに危険薬物に関する講義を開いている理由には、おそらくそれが含まれていると考えられた。
「で、たまたまその講義で教わったことが、今回子どもたちを助けに行く際に使えると思って、準備していたんだろうね。ずっと部屋に篭ってさ」
ようやく全ての話が繋がった。現状はわかったものの、それはどんどん最悪の方へと向かっている。
誰もがエミリに対しても、自分に対しても怒りを感じながら、これからどうしていくかの話に移行する。
「さて、これからの事についてだけど……エルヴィン、どうする?」
顎に手を添え、深刻な表情で頭を回転させる調査兵団団長。
事実を知ってしまった以上、このままエミリを放っておくわけにはいかない。しかし、下手に関われば調査兵団も危うい。
それをわかっていながらも行動に移したエミリ。彼女にとっても賭けだったはずだ。
それでも見過ごせなかったのだろう。自分が目指す薬剤師たちがあんな計画を裏で進めていたという事実が……。