Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
エルヴィンの視線がハンジに向けられたことで、皆を呼び出した原因を作ったのは、彼女であるということをその場にいる全員が察した。
「俺たちが呼び出された理由は、お前にあるらしいな。ハンジ」
足を組んでソファに腰掛けるリヴァイが、顔を俯けたまま微動だにしないハンジに問う。
しかし、彼女は顔を上げようとせず、頭を抱えているのみだ。
「……どうやら、ハンジが手に持っているその資料に、エミリが関係しているらしい」
ハンジに代わって説明したエルヴィンのそれに、場の空気が張り詰める。
「……何となくそんな気はしていた。
おい、ハンジ。黙っていても仕方ねぇだろう。その資料には何が書かれてあるのかさっさと説明しろ。あいつが絡んでいるなら尚更な」
「…………ああ、そうだね。ごめん」
相当参っているのか、弱々しい声を発するハンジは明らかにいつもと別人だった。
彼女をそこまで追い詰めるほどの内容が資料に記されているのか。はたまた、エミリの行動が彼女をそうさせているのか。
おそらくその両方だろう。
ハンジは自分の部下たちに目配せする。彼女と視線を合わせたモブリットたちは、何か覚悟を決めたような瞳でハンジを捉え、強く頷いた。
「……この資料は、エミリの仕事部屋から見つけたものなんだ」
「エミリの、ですか?」
まさかそんな所から出てくるとは思わず、ペトラは信じられないといった表情で、ハンジの手にある資料を凝視する。
「これを見つけたのは、ついさっきだ」
時は、約一時間ほど前に遡ることになる。
ハンジと二ファが、そろそろ講義から帰っている頃だろうと、エミリの仕事部屋へ来訪したことが切っ掛けだった。
いつもノックをしないハンジは、扉の向こうへ声をかけると同時にドアを開け、部屋の中を覗き、そして、驚愕した。
エミリの仕事部屋に常に置かれていた薬品たちが、もぬけの殻と言っていい程に、棚から消えていたからだ。
「私と二ファは、すぐに部屋の中を調べた。きっと、薬品が消えた理由がどこかに隠れているのではないかと思ったからね。
…………そしたら、クローゼットの奥に閉まっている鞄から、この資料が出てきたんだ」
片手に資料を持ち、ヒラヒラと揺らして見せるそれに、全員が注目を集める。