Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
アメリとペトラと街に出かけた翌日の午後。鞄を持ったエミリは、仕事部屋を後にした。
今日は、ファティマの講義が入っているためだ。兵服から私服へ着替え、兵舎の門を目指す。
「エミリ!」
廊下を歩いていると、後ろからペトラに声をかけられ振り向いた。
「どうしたの?」
「……ファティマ先生の所へ行くの?」
「うん! 何とか課題も終えることができたし、怒られずに済むよ〜」
「そっか……」
笑顔を取り繕い、明るい声を響かせて話すエミリの顔は、一見いつも通りに見えるが、どこか憂いを帯びていた。
ペトラは、もちろんそれを見逃さない。しかし、何も言わなかった。
昨日のエミリの言葉を信じているから。
そして、自分は「待つ」と決めたから。
「気をつけてね」
「うん、ありがと!」
ペトラの不安に見て見ぬふりをして、エミリは前を向く。そして、門へ向かって駆け出した。
小さくなっていくエミリの背中。それをただぼーっと眺めたまま、ペトラは祈った。
(…………この日常が、どうか、終わりませんように……)
脳裏に浮かぶのは、訓練の日々と一緒に過ごした時間。
この当たり前の日常が消えて欲しくない。
エミリがいつも隣にいるその毎日をこれから先も在ることを願い、ペトラは胸元で強く両手を握った。
しかし、夕方になってもエミリは帰って来ない。
ただのファティマの講義であれば、この時間にはとっくに兵舎で一緒に夕食を食べているのに。
(……エミリ、何してるの……)
エミリと共有している部屋の椅子に腰掛け、ただ待っているだけのペトラの不安は増すばかり。呼吸をするのさえ、辛くなってきた程である。
今、一体どこで何をしているのか。
エミリは無事なのか。
連絡手段などなく、安否確認のしようもない。こんなにも帰りが遅くなるということはやはり、何かあったということなのだろう。
じっとしていたって仕方がない。
ペトラは席を立ち、部屋を出ようとドアノブを握ろうとした。