Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
「おい、ハンジ」
急にガチャリと扉が開かれたかと思いきや、それと同時にリヴァイの低い声が耳に入る。
ノックもなしに彼が部屋に入ってくるのは、いつものこと。
「どうしたの?」
「今日のエミリの様子はどうだった」
「出たよ〜〜ほらね、モブリット。言っただろ? 収拾がつかないってさ」
「何の話しをしてやがる。俺は「はいはい、わかったから。ちょっと落ち着いてよ! ね?」
いつもに増して不機嫌なリヴァイの肩に腕を回し宥める。それに対し不服そうな顔をするリヴァイだが、ハンジの言動に苛立っている暇はない。
「で、エミリのことについてだよね。今日は、ペトラとアメリと三人でお出掛けしてたみたい。さっき帰って来たところ」
「あ? ずっと仕事部屋に篭ってたあいつが、か?」
リヴァイも何度か外に連れ出そうと声をかけたことはあった。しかし、エミリはそんなリヴァイの誘いを断り続けていた。
おそらく、リヴァイに隠し事は効かないとわかっていての行動だったに違いない。
「まあ、あの様子だとアメリ辺りに説得されたんだろうね。二人がエミリを連れ出した理由は、多分、様子見なんだろうけどさ」
「……で、エミリがそいつらに隠し事とやらを話すと、お前は思うか?」
「さあね……でも、あのエミリだよ? 理由なんてバレない限り話さないと思うけど」
バレたとしても、きっと無理に誤魔化し続けるだろう。それが、エミリという人間であることを、ハンジたちはよく分かっている。
「まあ、アメリとペトラには、何かしら話してるかもね。きっとあの二人は、一番エミリが話しやすい相手だと思うから」
「…………そうか」
ハンジの考えを一通り聞き終えたリヴァイは、そのまま踵を返し部屋を出ようと足を進める。
「リヴァイ! 余計な詮索は、返ってエミリを追い詰めるだけだよ」
「……言われなくてもわかってる」
一言だけそう返し、そのままリヴァイは扉を閉じて行ってしまった。
そんな彼の背中を見送り、ハンジは頭を抱えながら深くソファへ腰掛ける。
「…………エミリ、今度は何を考えているんだ」
胸に蠢く嫌な予感。
それは、膨張し続ける一方だった。