Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
「私は待つよ!」
ペトラが信じられないといった表情で固まっていると、隣から聞こえた明るい声が意識を引き戻す。
そちらへ視線を動かせば、さっきと変わらず優しく微笑むアメリの顔があった。
「アメリ、どうして……」
「ペトラも知ってるでしょ? エミリの性格。これだけしか聞いたり話さないってことは、もう私たちが何したって無駄だよ。
だから、私たちは信じて待つの。それが、今私たちがエミリにしてあげられる、一番のことだよ」
ペトラよりも一年多く付き合いが長いからか、アメリは今も落ち着いた表情だった。
アメリに諭され、ペトラは長い溜息を吐く。
(何よ……私だけ感情に振り回されて、馬鹿みたいじゃない)
そして、困ったように微笑みながら、ペトラは真っ直ぐにエミリを見据えた。
「待つよ、エミリ」
「……ペトラ」
「全く! エミリっていつもそうなんだから!!」
「……ごめん」
「謝るくらいなら、最初から心配するようなことしないの!! ちゃんと待ってるから。だから、絶対に帰ってきて」
「……うん。ありがとう、ペトラ。ありがとう、アメリ」
自分の心に勇気を与えてくれたペトラとアメリの言葉に、エミリはようやく決心をつけることができた。
二人に事情を話さず、あんな質問をするなんて、どれだけ自分が狡い人間かを突きつけられる。
それでも、行かなければならないのだ。
(…………帰って来られる確証なんてないけど、でも、二人が私を信じてくれている。その事実だけで、私は……わたしは、前を向いて行ける……)
一息ついて、ケーキを口に含む。
(例え、死という現実が目の前にあったとしても……)
口の中に広がった、ケーキの味。
なぜだか今はそれが、とても甘酸っぱいものに感じられた。