Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
アメリの言葉が、真っ直ぐと心に響く。そして、揺れ動く心にエミリは胸を抑えた。
(……何も言わないって、決めたのに……)
思わず口から言葉が漏れそうになるのを、必死で耐える。
しかし、何か言わなければきっとこの心は落ち着かないだろうと、頭を動かした。
「……エミリ」
心配が入り交じったペトラの声。
「エミリ!」
穏やかで優しいアメリの声。
二人に名前を呼ばれることで、溜め込んでいたものが一気に爆発しそうになる。
その勢いに乗って、口を開こうしたエミリ。しかし、そんな彼女の頭に浮かんだあるものが、エミリの心を引き留めた。
(………………駄目だ。言えない……)
開きかけた口を閉じ、一度大きく深呼吸をしては気持ちを落ち着かせる。
瞼をゆっくりと開けて、もう一度親友たちを目に映した。
そんなエミリに襲い掛かるのは、二人に隠し事をしているという罪悪感。
それでも、成さなければならないことが、エミリにはある。
しかし、これからエミリがやろうとしていることは、自分の未来を自ら壊してしまっても不思議ではない程のことであった。
そんな自分が、縋るような気持ちで事情を説明し、二人を巻き込むわけにはいかない。何より話せばきっとエミリを止めるだろう。
(……だけど、せめてこれだけは、聞かせてほしい……)
安心がほしい。
一歩踏み出すための勇気が、ほしい。
(だから、どうか神様……これだけは、許して下さい)
何とも都合の良い神頼み。それでも、今はそれに縋る以外に術を知らなかった。
「ペトラ、アメリ……一つだけ、聞いてもいい?」
「もちろん! 何?」
「…………もし、私が何かしても……二人は、待っててくれる?」
「えっ」
訳の分からない質問。ペトラの頭は一瞬の間真っ白になった。
そして、一体何をしようとしているのだと問い詰めたくなる。
しかし、それができなかった。
エミリの表情が、あまりにも真剣だったから。