Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第5章 壁外調査
「それにしても、驚いたな」
「え、何がですか?」
立体機動で移動をしている最中、唐突にエルドが口を開いた。話の内容が掴めないエミリは控え目に問い返す。
「いや、初陣の割には酷く冷静だと思ってな」
「……そう、ですかね」
「俺も初めて壁外へ出た時は、恐怖心が勝っていた。あいつらのようにチビってはないがな」
新兵時代のことを思い出し、懐かしそうに語るエルドの表情は少し柔らかいものだった。
やはり、新兵は皆そうやって巨人に怯えるものなのか。分かるような、分からないような……エミリは複雑な心境だった。
あの日は、母を失った悲しみの方が強く巨人を恐怖に感じる暇など無かった。
「そういや、兵長が新兵の時は、巨人に怖がるどころか一人で何体も討伐したって話を聞いた」
「へぇ……」
エミリは言葉が出なかった。
確かに、リヴァイが巨人に怯える姿など想像もつかない。彼の身体能力の高さだけに限らず、性格や精神力の強さもあるだろう。
(それでも、新兵の時からそんなに強かったなんて……)
けれど、そこで一つ引っ掛かった。
リヴァイの年齢は20代後半で、そして二年前に助けられた時、彼はまだ無名の兵士だった。リヴァイの名が上がったのも一年ほど前になる。
訓練兵団への入団可能な年齢は12歳からだ。つまり、
(兵長は、訓練兵団から調査兵団に入団した訳ではない……?)
訓練兵団から調査兵団へ入ったのであれば、もっと早くに彼の名が上がっていてもおかしくは無い。初陣でエルドが話したような戦績を残したのであればなおのこと。
(……リヴァイ兵長って、一体何者)
リヴァイに対する謎が一つ増えたエミリであった。