Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第20章 約束
「あっ、ペトラ達見つけた〜!」
それぞれが深刻な表情で、自主トレーニングに戻ろうと演習場へ足を進めようとした時、いかにも女の子らしい可愛い声が響き渡った。
発言からわかる通り、この声は、もちろんペトラたちも知っているものである。
「アメリ? いらっしゃい!」
この間、エミリを通して知り合ったばかりのアメリが、大きく手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる。
駐屯兵団所属のアメリだが、非番の日や時間が空いている時は、よく調査兵団へエミリたちに会いにやって来る。
そんな彼女の腕に抱えられているのは、一冊の分厚い本だった。
「ねぇ、その本は?」
「あ、エミリに借りたんだ〜! 読みたかったんだけど、どこにも売ってなくてね。そしたら、丁度エミリが持ってたから」
「じゃあ、エミリに会いに行ってたの!?」
「う、うん。そりゃあもちろん」
必死な様子のペトラに少々気圧されるも、戸惑いながら頷いて見せる。
そして、同時に察した。エミリに何かあったということが。
「ねぇ、アメリ……エミリの様子、いつもと違ってなかった?」
「うーん……そう言えば本借りたら、『忙しいから今日はゆっくりできないの。ごめん』って、すぐに仕事部屋に篭っちゃったかな」
「やっぱり……」
いつもであれば、たまにしか会えないからとアメリとの時間は必ず作っている。しかし、今回はそれをしなかった。
アメリとの時間よりも優先すべきものがある、ということなのだろう。
そして相変わらず今も仕事部屋に篭っているらしい。
ペトラたちの疑問は深まるばかりだった。
「エミリからは何か言ってた?」
「それが……なんでもない、の一点張りで」
「それ、エミリらしいね〜」
訓練兵の頃から変わっていないエミリの頑固さには、呆れよりも感心する気持ちの方が高い。
しかし、状況が良くない方向へ向かっているのは確かだ。悠長に話している暇などない。