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Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人

第19章 贈り物




「し、失礼しまーす……」


扉を開く音と共に響く鈍い音。やけに静かな空間に、それは大きくはっきりと響いた。

遠慮がちに中へ入り、扉は開けたまま、足音をあまり立てぬよう静かに進んで行く。


本当に誰かいるのだろうか。
そんな疑問が生じるほど、人気が全くないように感じる。
建物の中も暗くて何も見えない。


上昇する心拍数。
不気味さから体の体温までもが下がっていく。
濡れた自分の体ですら気味悪く感じられるほど、この空間は、空気がとても淀んでいるのだ。

なんなら、今すぐここから出たい。
そう思っても、雨は強くなるばかり。ここで雨が上がるのを待つしかないのだ。
だからと言って、じっとしていることもできなかった。


誰かいませんか?


声を上げたいのに、恐怖心が勝り言葉が出なかった。
響き渡るのは、自分の息遣いと足音だけ。それがさらに不気味さを醸し出している。


(…………何なのよ、ここ……)


早く兵舎に帰りたい。

いつも騒がしいハンジとそれに振り回されるモブリットたちの慌ただしい声。
鬱陶しいフィデリオの嫌味とオルオの自慢話。
穏やかで柔らかいペトラとエルヴィンの言葉。
怖いけれど優しさが込められたリヴァイの説教。

いつも、どうしようもないほど賑やかすぎる調査兵団が、恋しくて恋しくて、仕方が無い。


迷宮に迷い込んだ気分に陥ったエミリの瞳からは、涙が零れそうになっていた。


コツ……


そんなエミリの足元に、何かがぶつかった感触と音を感じた。


(……何?)


立ったままでは見えない。その場にしゃがみ込まなければ、おそらく識別がつかないだろう。
意を決して、ゆっくりと腰をかがめる。


ドキン……ドキン……


更に早鐘を打つ心臓。
何が見えても良いように、胸に手を当て身構えながら、エミリはその正体を確認した。そして、


「ッッ!!?」


思わず手を口に当て、勢いよく後ずさる。

声にならない声とは、正にこのことを言うのだろう。数秒後にフッと頭の中に浮かんだ言葉を、首を振ってすぐさま打ち消し、もう一度”それ”を確認した。

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