Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第19章 贈り物
ファティマの授業を終えたエミリは、ウォール・シーナを抜けるために、門へ向かって歩いていた。
そんな時、急に降り出した雨。
教科書やノートが濡れぬよう、胸元にしっかりと抱えて、エミリは雨宿りできる場所を探していた。
一先ず木の下に入り込んだものの、雷が強く光っているためここに居ては危険だ。
とにかく、建物の中に入ろうと再び鞄を抱えて走り出す。
「はぁ、はぁ……どこか、雨宿りできる、場所はっ……」
雨のせいで濡れていく髪や体。冷たさに体温が奪われていくのを感じながらも、走り続ける。
(ていうか、ここどこ……?)
雨宿りをするために王都の町を走り回っているエミリだが、どんどん森の中へ入って行っているような気がする。
もう周りは樹木が並んでいるだけだ。
(もしかして……迷った?)
自分の顔色がどんどん青ざめていくのがわかる。しかし、めげずに首を振ってとにかく前へ進んだ。
びちゃびちゃとぬめった地面を蹴り、髪と服が肌に張り付く感覚に耐えながら、走る速度を上げていく。
霧が視界を遮る中、ようやく見えた出口らしき光。
そこに向かって突き進んだエミリの瞳に映ったものは、自分の身長よりも高い門だった。
「……え」
何だこれ、と言いたくもなったが、このままではさらに風邪を引いてしまう。
門が開いていたら、勝手に申し訳ないが中に入らせて貰おうと、手を当てゆっくりと押し出す。
「あっ、開いた……」
特に強い力を入れずとも、ギィと鈍い音を立てて開く黒塗りの鉄門。自分一人が入れる分だけの隙間を開け、エミリは門の向こうへ足を踏み入れた。
再び走り出し、建物を探す。
道なりに従って進んで行けば、今度こそ大きな建物が佇んでいた。
「あった……!」
ようやく雨宿りできる。そう思って、更に足を早める。
ただ、気になる点が一つあった。
この建物は、屋敷というよりも工場のようなものに近い、味気のないなんとも素朴な造りとなっている。いや、廃墟とでも言えるのではないかと思えるほど、古い建物だ。
エミリは、少し気味の悪さを感じながらも、建物の扉の前へ立ち、そっと扉を横にスライドさせた。