Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第19章 贈り物
少しずつ気温が上昇していく今日この頃。5月も半ばを過ぎ、季節は春から夏へ移り変わろうとしていた。
エミリがファティマの元で勉強を始め、もう1ヶ月以上も経っていた。
日々の訓練と薬学の勉強に加え、後輩の指導、さらに薬草園の建設も終わっているため、現在は薬草を育てることにも忙しく、この頃はかなりのハードスケジュールであった。
それでも、エミリは何度も思う。
どんなに辛いことがあっても、やはりこの日常が好きだと。
そして、尊敬する師の元で薬学を学ぶことができる。このとてつもなく素晴らしい運命は、今でも信じ難い。
「それじゃあ、今日はここまでね」
「はい! ありがとうございます!!」
今日の範囲を終え、ファティマは教科書を閉じ眼鏡を外す。
エミリがグッと伸びをして体を解している間、ファティマはお手製のハーブティーをカップに注ぎ、エミリに差し出した。
「今日もお疲れ様。これ、前に話したハーブティーよ。良かったら飲んで行って」
「わぁ! ありがとうございます!!」
嬉しそうに顔をほころばせてカップを受け取ったエミリは、数回息を吹きかけ少しずつ口の中に含んでいく。
「どうかしら?」
「とっても美味しいです〜」
味覚だけでなく、ティーの香りが嗅覚をも刺激し、心に落ち着きを与えてくれる。
勉強で疲れた後のエミリには、丁度良い代物だ。
「最近、調子が良いわね。この様子であれば、次の壁外調査までに、また幾つか扱える薬を増やせるわ」
「本当ですか!?」
「えぇ」
ファティマの元で勉強を初めてから、エミリはずっと好調が続いていた。
一人で勉強しなければならないという不安が無くなり、代わりに生まれたのは、ファティマが隣に付いてくれるという安心感。
それも、向上の一つの切っ掛けだった。
「では、次の授業は五日後にしようと思っているのだけど、よろしいかしら?」
「はい! 大丈夫です!!」
「わかったわ。じゃあ五日後、待っているわね」
「はい、またよろしくお願いします!」
カップを机に置いて一礼したエミリは、そのまま荷物を持ってファティマの研究室を出て行った。
途端、静かになる部屋。
ファティマは、背を椅子に預け重たい溜息を一つ吐いた。