Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第19章 贈り物
「あれ、兵長。なんですか?」
さっきまで、次の壁外調査に関する会議が行われていた。リヴァイがここにいるということは、どうやらもう終わったらしい。
そんな彼には、この後仕事があるはずだが、それよりも優先しなければならない用事がエミリにあるようだ。
「今夜、予定はあるか?」
「え、いえ……特にないですけど」
「そうか。なら、出掛けるぞ」
「はい?」
リヴァイはいつも唐突だ。予定があるか無いか、聞くだけ聞いて勝手に決めてしまう。
大体何処へ行くのかもわからないというのに、直ぐに頷けるわけがない。
そして先日、奮発して食べ歩きをしたせいで、金欠状態。もし金を使う用事であれば、エミリの財布は金の入っていない、貴重品でも何でもないただの財布になってしまう。
「……ちゃんと何処行くか教えてくださいよ〜」
眉根を下げ口を尖らせて抗議すれば、暫くの沈黙のあと、リヴァイは仕方なく口を開いた。
「この前、約束しただろうが。ケーキの食べ放題に連れてってやるってな」
「……この前?」
要件を告げたリヴァイの言葉を聞いて、記憶を遡らせる。
そう言えばと思い出したのは、薬剤師試験の一次試験を終えた夜のこと。
屋上でリヴァイと星を見上げながら、そんな約束を交わしたことを思い出す。
「ああ〜! ありましたねぇ」
「お前、自分で言って忘れてたのか」
ぽん、と拳を作った片手をもう片方の掌に乗せて見せるエミリの仕草に、リヴァイは呆れた表情で溜息を吐いた。
リヴァイとしては、結構楽しみにしていた約束だったが、言い出しっぺである本人に忘れられていたと思うとなんだか悲しいような、寂しいような、そんな微妙な感情が渦巻く。
「まあ、いい。そんなわけで、連れてってやるから18時に正門で待ってろ。わかったか?」
「はい! ありがとうございます!!」
嬉しそうに顔を綻ばせるエミリにつられて、リヴァイの頬も緩む。
二人だけの時間。食事を取りながらゆっくりと過ごし、色んなことを話そう。
兵団内にいるうるさい奇行種も居ないため、ちょっかいを出されることは無い。誰にも邪魔されずに済む。
……そう、思っていた。