Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第19章 贈り物
ペトラと共にある程度部屋の引越しを終えたエミリは、中庭で大きく伸びをした。
彼女の隣に立つ木の枝には、ヴァルトが毛繕いをしている。
「ヴァルトーこれからヴァルトの寝床は、私とペトラの部屋になるからねー!」
枝に乗っかっているヴァルトにそう声をかければ、くるりと顔を一回転させてパタパタと羽を広げている。
そんな相棒のかわいい仕草にクスリとエミリは微笑んだ。
馬小屋に応急処置として置いてあったヴァルトの止まり木を、エミリとペトラの部屋へ移動させたことによって、ヴァルトは兵舎で休息を取れることになった。
それでも基本は放し飼いをしているため、好きなところで寝ようと思えばできる。その辺りはヴァルトの気分に任せることにした。
「ヴァルト、ご飯食べた?」
枝から飛び立ち、スイスイと庭を飛び回るヴァルトを目で追いながら問いかける。
食料に関してもヴァルトの好きにさせている。
最初はエミリが準備してもいいかと思ったが、これまで野生として生きてきたヴァルトには、やはりこれまで通り狩りで食事をしてもらった方が良いと考えた。
そのため、ヴァルトがいつどこで食事をとっているのかは、エミリも知らない。
「うーん……あの様子だと、もうご飯は食べたのかな?」
部屋の引越しをしている最中に一度馬小屋を覗きに行けば、リノがいるだけで隣にヴァルトはいなかった。
もしかしたら狩りにでも行っていたのかもしれないと、勝手に結論づける。
その後は、木の幹に背を預け、空を優雅に飛び回るヴァルトを眺めているだけだった。
あの立派な羽で空を飛ぶという感覚は、どのようなとのなのだろうか。
一度、立体機動装置などではなく、本物の羽で飛んでみたいものだ。しかし、それは一生叶うことの無い夢である。
「エミリ」
そんなことを一人考えていた時、兵士長の声がエミリの意識を空から彼の方へ逸らした。