Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第5章 壁外調査
「……え」
何が起きたのか、現状を把握するのに数秒ほど時間を要した。
蒸気を放つ巨人の上に立つ一人の兵士。
それは──
「……リヴァイ、兵長」
彼の姿を見て、ようやく止まっていた思考が動き始めた。
エミリよりも後方にいたはずのリヴァイが、目にも留まらぬ速さでエミリを追い抜き巨人を倒した。
改めて、彼の凄さを実感した。
「チッ、汚ぇな」
項を削いだ際に手に付着した血をハンカチで拭う。
こんな戦場の真っ只中でも、潔癖症の彼らしい仕草だ。
ぼーっとリヴァイを眺めていたエミリだが、ハッとしてペトラの元へ移動する。
「ペトラ! 大丈夫!?」
「…………」
慌てて駆け寄り声を掛けるも、ペトラは放心状態だった。巨人に襲われかけたのだから無理もない。リヴァイが駆けつけていなければ、ペトラは今頃巨人の口の中だ。
「ペトラ!!」
「!」
ペトラの肩を揺さぶりもう一度呼びかけると、ようやく反応を示した。
ホッとしたエミリだったが、ふと、ペトラのズボンが目に入る。
「えっと、ペトラ……」
「……え、あ……なに?」
エミリは自分の目が移った場所へ人差し指を指す。それに釣られて下を向いたペトラは焦りと羞恥から顔を赤くさせた。
これが男相手だったら遠慮はいらないだろうが、それが女ならばかなり言葉にしづらい。
「エミリ……! あの……これはっ!!」
「大丈夫だよ」
必死に手で隠そうとするもそれだけでは無理がある。
恐怖によって緊張状態だった身体が、リヴァイに助けられ安心したことでそれが解かれた。その反動で自分でも気づかない間に失禁していたようだ。
人目の無い場所でならまだしも、ペトラの傍にはエミリとリヴァイがいる。二人の前で恥を晒してしまったと目線を合わせないよう顔を俯かせた。
「……ったく、お前もか」
ペトラを見下ろしながらいつものように淡々と言葉を投げるリヴァイにエミリは心の中でつっこんだ。
(いや、兵長……流石に今のはデリカシー無さすぎます!!)
巨人の恐ろしさに失禁する者はこれまでにも沢山いた。
リヴァイにとっては見慣れたことかもしれないが、年頃の女の子にとっては大事件だ。