Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第19章 贈り物
「愛されているわね、あの子」
「全く、リヴァイのあれも困ったものです」
「ほう……やはり、リヴァイのあれはそういうことなのか」
初めて見る兵士長の態度に、ザックレーは興味深そうに目を細めて二人を見送っていた。
ザックレーが初めてリヴァイと会ったのはいつだったか……。
壁が破壊された後……彼を兵士長へ任命した時だ。それまでは、まだ分隊長であったエルヴィンから報告書等で彼の様子を知るくらいだった。
あの廃れた地下街から地上へ出たリヴァイは、今と比べて気性も荒く、周囲の者と打ち解ける様子もなく、かなり問題児であったと、当時、調査兵団の団長を務めていたキースから話を聞いたことがある。
そんな彼が、兵士長として部下の上に立ち、また、一人の少女に恋心を抱くことになるなど、あの頃は誰も予想などしなかっただろう。
いや、ただ一人、エルヴィンだけはその未来を予測できていたのかもしれない。
「ふむ、やはり興味深いな。エミリという少女は……」
一切、他人を寄せ付けようともせず、兵士長となった今でも誰一人と自分の心の奥底へ他者が踏み込むことを拒んでいたリヴァイ。
そんな彼を変えてしまうほどの人物は、ザックレーにとって立派な観察対象である。
「だからって、あんなに観察するのはやめてあげなさい。とても気の毒だったわ」
泣きそうな表情でザックレーの視線を浴びていたエミリを思い返し、ファティマはやれやれと首を振る。
「まあ、その内な……」
できることなら今回が最初で最後にしてあげたかったが、ザックレーは聞く耳を持たない。
また何か理由をつけてエミリと接触を測ろうとするつもりなのだろう。困った夫である。
そんな彼らが一目置いている少女の弟が、近い将来、この人類の命運を左右する程の人物になるなど、誰も予想し得ない。
「あのエミリって子、本当に素敵な子なんだろうね……」
穏やかな会話を交わすエルヴィンたちの後ろで、オドが一人、ポツリとそんな言葉を零していたことも、彼本人しか知らない。