Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第19章 贈り物
「僕もね、同じさ」
もじもじと体を揺らすエミリの頭上へ、再びオドの爽やかな声が降ってくる。
「助けるために身につけたこの知識や技術をこの先も使っていきたいと思っているんだ。その為に僕は、医師と薬剤師、両方の資格を取得したんだ。
……エミリ、同じ志しを持つもの同士、お互い頑張ろうね」
「はい!」
そして二人は、もう一度固い握手を交わした。
そんな二人のやり取りを隣で見ていたファティマの顔に乗せられているのは、笑みではなく無。それもどこか険しいものだった。
「随分と難しい顔をしていますね」
ファティマの心中を察したエルヴィンが、エミリとオドを視界に入れたまま、静かに声をかける。
「彼が、どうかされたのですか?」
「……どう、と言うわけではないけれど……ただ、最近彼に少しだけ違和感を感じているだけです。
まあ、それはこちらの問題ですから、貴方方は気になさらないで」
どうやらオドについて話をするつもりは無いらしい。瞼を閉じるファティマの様子から、それを察したエルヴィンは、これ以上何も追求はしなかった。
「おい、エミリ。そろそろ戻るぞ」
「わっ」
手を握っていた二人の手が、リヴァイによって引き剥がされる。
それは、リヴァイの嫉妬の表れだった。
エミリとオドは初対面のはずなのに、同じ目標を掲げる者として打ち解けつつある。
それが気に食わない。だからさっさと意識を自分の方に向いて欲しくて、二人の会話を中断させたのだ。
そして、リヴァイに後ろ襟を掴まれたエミリは、そのまま引き摺られていく。
「兵長!? な、何なんですか!! 私、まだオドさんとお話したいことがたくさんあるのに!」
「チッ……うるせぇ。さっさと帰らねぇと兵舎に戻る時間も遅くなるだろうが。我儘言うんじゃねぇよ」
正論を突きつけられ、エミリは反論できない。
不貞腐れた顔のままリヴァイに引き摺られていくエミリの様子に、ファティマはやっと笑みを零した。