Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第19章 贈り物
そんな嫉妬深い兵士長の肩に、まあまあと宥めるように手を置くのはエルヴィンだった。
今にも盛大に舌打ちを鳴らしそうなリヴァイの視線は、オドに注がれている。
小さな声で、「嫉妬深い男は嫌われるぞ」と助言してやれば、その鋭い目はエルヴィンに移された。
「あの! 私、エミリ・イェーガーと申します!! オド先生にお会いできて光栄です!!」
「イェーガー……?」
「エミリは、グリシャ・イェーガー先生の娘さんよ。そして、これから私の元で薬学を学ぶことになったの」
「へぇ、そうなんですか」
未だに憧れの眼差しを浴びせるエミリに向かって微笑んだオドは、スッと右手を差し出す。
「ファティマ先生の弟子同士、これからよろしくね」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願い致します!!」
オドの右手を握り、ギュッと力を込めて握手をする。自分が憧れる人物の一人とこうして交流が持てることに幸せを感じた。
「…………君は、とても美しい心を持っているんだろうね」
「えっ……」
突然、意味深な言葉を発するオド。
その発言の中身が理解できず、エミリは首を傾けた。
「あの、どうしたんですか?」
「いや……ただ、ファティマ先生の教え子になれたってことは、君は、他人を思いやる心が誰よりも強いんだろうなって思っただけだよ」
「……はあ?」
確かにファティマは、エミリのように”誰かを助けたい”と強く願い、仕事に尽くすことができるような人材を求めていた。
しかし、彼女の教え子になったからと言って、本当にその人間が皆、清らかな心を持っているのだろうか。
実力が全ての世界なのだ。
ファティマだって、気持ち以上に腕前を優先することだってあっただろう。
「君は、どうして薬剤師になりたいって思ったんだい?」
「……私は、調査兵団の仲間たちの力になりたくて」
「へぇ……ってことは、兵士をしながら薬剤師を目指すんだ。それはまた凄いね」
「あ、ありがとうございます!!」
まだ薬剤師になってもいないが、些細なことでも褒めてもらえたことが嬉しくて、エミリはほんのりと恥ずかしげに頬を染める。