Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
「本人も嬉しそうな顔をしていますし、どうかしら?」
エミリにクスリと笑みを零し、改めてエルヴィンと向き合ったファティマは、彼の返答を待つ。
「ええ、先生がそう仰るのであれば」
「ありがとう。では、上には私から伝えておきますね。それじゃあ、私はそろそろお暇するわ」
その言葉が合図となり、御者によって馬車の扉が開かれる。
ファティマは踵を返し、そのまま車内へと乗り込んだ。それに続いて秘書がファティマの向かいへ腰を下ろせば、扉が閉められる。
「あの!!」
小窓から見えるファティマに近づき、エミリは思い切り頭を下げた。
「色々とありがとうございます! 今後も、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします!!」
気合いの入ったエミリの声に、ファティマはもう一度微笑んで見せる。
ゆっくりと滑り出す馬車は、そのままガタガタと音を立てながらウォール・シーナの門を目指し小さくなっていった。
「あ、そう言えば……ファティマ先生、上には先生から伝えておくって仰ってましたけど、先生ってそんなに顔が利くんですね?」
薬剤師の最高責任者とあれど、兵団を動かせるほどの権力が、当然だが彼女にあるわけではない。
三兵団を束ねているのは総統であるダリス・ザックレーだが、彼とは顔見知りなのだろうか。
「ファティマ先生、ザックレー総統とちょっとした知り合いだったりするんですかね?」
エミリは視線を上に向けながら、ぼんやりとそんな適当なことを考える。
「まあ、ファティマさんはその総統の奥さんだから、そりゃあ顔が利くのは当然のことだろうね〜」
「へぇ、そうなんですか………………え?」
いつものように機嫌良くエミリの疑問に答えたハンジだが、彼女の発言にエミリの思考は停止する。
その隣で同じように虚をつかれた様な表情を見せるのは、リヴァイ。
エミリとリヴァイは、チラリと顔を見合わせ、ハンジを問いただすべくもう一度彼女へ視線を戻した。