Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
「おい、クソメガネ……お前、今何て言った……?」
「だからぁー、ファティマさんは、ザックレー総統の奥さんなんだってば」
再び静まり返る四人の空間。そんな中エルヴィンの小さな笑いが零れる音が、やけにはっきりと聞こえた。
「…………ザックレー総統の、奥さん?」
「うん!」
「ファティマ、先生が……?」
「そう!」
どうリアクションしていいのか分からないエミリは、ハンジに教えて貰った衝撃的事実をボソボソと繰り返す。
「総統の奥さん!!?」
そして、とうとう盛大に声を上げた。そんなエミリの甲高い声は、やまびこでも返ってくるのではないかと思える程、辺りに響き渡っている。
「初耳なんですけど!?」
「そりゃあ、言ってないからねぇ」
「ハンジさんが知ってるってことは、団長も知ってたんですよね!? 何で教えてくれなかったんですか!!」
「君に教えて状況が変わる程のものではないだろう?」
「いえ、そうですけど……ていうか、逆に兵長は何で知らなかったんですか?」
兵士長のリヴァイであれば、ファティマとザックレーの関係を知っていたとしてもおかしくないはずだ。
いつものエルヴィンのちょっとした悪戯で、一人だけ蚊帳の外扱いされていたのだろうか。
「まあ、いつかリヴァイも知る日がくるだろうと思ってな……」
「エルヴィン、てめぇ……」
知らない方が面白そうだった、というエルヴィンの心の声が思い切り顔にだだ漏れしている。そんな彼の楽しげな表情を見たリヴァイは、眉間に皺を寄せて舌打ちを鳴らした。
「まあ、その話は置いとくとして……エミリ、ありがとう」
「え、何で私がお礼言われてるんですか?」
にこやかな笑顔でエミリの頭を撫でるハンジの言動が理解できず、疑問符を浮かべている。
ただ、嬉しかった。エミリが調査兵団に残ってくれるという事実が。
そうなる未来は予想できていたが、改めてエミリの口から調査兵団への想いを聞いて心が温かくなった。
それは、ハンジだけではない。エルヴィンもリヴァイも同じだ。
ただ、一つ引っかかること。
ファティマの言う、これから先エミリがぶつかる大きな壁。それは一体何なのだろうか……。