Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
エミリはわからなかった。
どうしてファティマ程の人物が、ただの一介の兵士であるエミリにそこまでしてくれるのか。
「…………どうして、ここまでして下さるのですか?」
その疑問をファティマに直接ぶつける。
彼女の誘いはとても嬉しい。兵士を続けながら、ファティマの教えを受けることができるなど、それこそこんなにも美味しい話はない。
それでも、腑に落ちない。自分は、彼女に気にかけられるほどの人間ではないというのに……
「…………エミリ、貴女は、今の医療界をどう思うかしら?」
「……え」
笑みを崩し、空を仰ぎ見るファティマの表情は、とても深刻なものだった。
さっきまでの余裕の笑みは、どこへ行ったのだろうか。
「どう思うって……」
「貴女が志す、”気持ち”や”思いやり”というものが、今の医療界には見られないの」
全ては金のために資格を取得し、商売というものをしているだけの医師や薬剤師たちが、ここ数年でかなり増加していた。
貴族を中心に膨大な金を持つ者にしか診療を行わず、貧しい人々を見捨てるばかり。
ウォール・マリアが破壊された時も仕事を放棄し、偽りのマリア領土奪還へ避難民を参加させるよう政府を支持したのも彼らだった。
「自分の命と富、そして名声さえあれば良いと言い張る者ばかり……全く、人の命を何だと思っているのかしらね。
……私は、医療に関わっているそんな一部の者たちが、許せないのよ。
そして、こんな腐った世の中を変えられるほどの力が無い自分が、情けなくて仕方なかったの」
救えるかもしれない命、それすらも消えてしまう。それが当たり前となって来ているこの世が、胸クソ悪くて仕方がなかった。
「でも、そんな時に……エミリ、貴女と出会った」
「…………私?」
「ええ。私は、ずっと探していたの」
自分の利益よりも他人を思う、優しい心をたくさん心で煌めかせている、そのような人材を探していたのだ。
それが、エミリだった。