Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
「だけど……」
小さな声でその三文字を吐き出したエミリは、大きく息を吸い、そして、腰を前へ倒し頭を下げた。
「ごめんなさい。私は、兵士を辞めるつもりはありません」
はっきりとした大きな声。
エミリのその回答には、一切の迷いが含まれていないことを、リヴァイやファティマたちはすぐに察した。
「薬剤師になれる折角のチャンスを、棒に振るつもりなの?」
「…………先生のお誘いは、確かに私にとっては大変意味のあるものです。すごく、有難いお話なのはわかっています。だけど、兵士を辞めるなんて……私には考えられません」
申し訳ない気持ちもあった。
わざわざ調査兵団に自ら出向き、誘いをくれたのだから。
それほどエミリは、ファティマから気にかけられている存在であるということ。
そして、こんなにも美味しい話を持ち出されたにも関わらずそれを断るということは、ファティマに対してどれほど失礼な行為であるかも、わかっている。
それでも、兵士の道を諦めることなど……エミリにはできなかった。
「……先生、私は、皆のことが大好きなんです」
ファティマの目をしっかりと見据え、話すエミリの顔には、笑顔が乗せられていた。
日向のように優しく、温かい微笑みは、見ているだけで心に温もりをくれるようだった。
「仲間たちと共に過ごす時間が好き。
仲間たちの隣に居ると心地良い。
人類のために心臓を捧げて、共に未来を歩んでくれる仲間たちのことを、私はとても誇りに思っています。
そんな仲間たちと、もっともっと一緒に居たいんです。この先も、共に戦っていきたい」
そして何より、力になりたいと思うから……
「私には、調査兵団が必要なんです。
皆と共に歩んでいくこと、皆ともっと色んな世界を見て、聞いて、感じていくこと……それが、私を大きく成長させてくれると、そう信じています」
皆の力になりたい。
そう思ったことがきっかけで、再び薬剤師という夢に向かって走り出した。
忘れてはならない。今、自分は誰のために夢を追いかけているのかということを……。