Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
「あら、慌てた様子でどうしたの?」
全速力で走ってきたのだろう。エミリは大量の汗を光らせ、大きく肩で呼吸をしていた。
エミリがファティマの元へ来た理由。そんなもの、わざわざ聞かなくとも分かる。しかし、あえてファティマはそうした。
「…………早く、返事をしたかったので……」
やはり、ファティマの誘いを受けるか否か。その答えを出しにやって来たようだ。
エミリは、リヴァイとハンジの間を縫って、ファティマの前へ立つ。
まだ少々息は荒く、心臓の鼓動は早い。それでも、伝えたい気持ちの方が遥かに大きく、息苦しさを感じながらも腹部に力を入れて声を前へ出す。
「……あの後、一人でずっと考えていました。ここに残るか、先生に着いていくか……」
バクバクとなり続ける胸に手を置き、呼吸を整えながら想いを形にしていく。
「……私、嬉しかったんです。先生に誘って頂けて……。こんな私の中にも、まだまだ可能性があるんだってことを、わかることができましたから」
いつも何もできない自分が、仲間に助けられてばかりの情けない自分が嫌で、飛び抜けて優れたものを持っていない自分を否定し続けていた。
そんなエミリに向けられたファティマの言葉や気持ちが、心を真っ直ぐ貫き、まるで新しい世界へ降り立った様な感覚を覚えた。
それほど嬉しかった。
目に映るものがキラキラと輝いて、明るい未来がすぐそこで待っているようだった。
「……きっとファティマ先生と共に行けば、私は薬剤師になれると思います。小さい頃から憧れていた、私の夢がすぐに叶う」
静かな声で一つひとつ言葉を響かせるエミリの表情は、とても活き活きとしていた。
そんな彼女の声にリヴァイたちは、鼓動が加速していくのを感じながらも黙って耳を傾けていた。