Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
誰もいない部屋でただ一人、エミリは枕を抱えてベッドに寝転がっていた。
突然のファティマの来訪と彼女からの誘いには驚かされたが、そこにはエミリの心を揺さぶるほどのものがあった。
(……兵士であり続けるって決めたはずなのに)
どうして自分はいま、こんなにも迷っているのだろう。優柔不断な自分が嫌いだ。
何度目かわからない溜息を吐き出し、寝返りを打つ。
兵士を続けたい。
それはもちろん、エミリの本心だ。これからも戦友たちと共に、人類や人々のために剣を振るっていきたいと思っている。
だけど、本気で薬剤師になることを夢見ていたから、ファティマの誘いはまたとないチャンスなのだ。
学校に入れば、独学で学ぶよりもずっとずっと多くのことを体験できる。もちろん、そこでしか出来ないことだってたくさんある。
入れるものなら入りたい。
しかし、そちらを選んでしまえば、兵士を諦めなければならない。
(…………どうすれば、いいのかな……)
ゆっくり考えて決めれば良いと言っていたが、そうもいかない。
時間は待ってくれない。エミリにモタモタしている余裕など無いのだ。
枕に顔を埋め、ゴロゴロとベッドの上で転がり続けていると、ガチャリと扉が開く音が聞こえ起き上がった。
「あ、エミリ! 戻ってた!」
「……ペトラ?」
扉から顔を覗かせる親友にエミリは首を傾ける。ペトラがやけに楽しそうな顔でいたから、何か嬉しいことでもあったのかと気になる。
「ねぇ、今から予定ある?」
「別に……ないけど」
「良かった! じゃあ、ちょっと一緒に談話室に来てくれない?」
あるとするならば、ファティマの話と今後について考えることだけ。
しかし、おそらくこのまま何もせずに居ても答えなど出るはずが無いだろう。
「うん、いいよ」
「ありがとう! じゃあ、行きましょう!」
ベッドから降り、早く早くと手招きして見せるペトラの元へ歩み寄る。談話室へ向かうため、二人で部屋を出た。