Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
エミリが困惑している隣で眉間に皺を寄せるのは、紅茶を片手に足を組んで黙って話を聞いているリヴァイだった。
薬剤師の中でも最も権力の持つファティマが、わざわざ調査兵団へ自ら足を運び何の用かと思えば、エミリの傷口を抉るような彼女の言動に苛立ちが隠せずにいた。
どれだけエミリが悔しさを抱えていたのか。
そばに寄り添っていたリヴァイが、彼女の気持ちを一番に理解できていた。
いつものようにすぐに立ち直った後は、いつものように訓練を繰り返し、休暇を満喫しながらも勉強は怠らない日々を、エミリは過ごしている。
努力を惜しまないエミリに、ファティマは次に何を求めているのか。
彼女の思惑が全く持って見抜けない。
隣を見れば、少し顔を下に向けているエミリ。
ファティマの問いに対して、何と答えるのだろうか。
「……ファティマ先生の言う通りでした」
沈黙を破るその声は、いつもと比べてとても弱々しいものだった。
「薬剤師になりたいって気持ちは、誰にも負けないくらい大きいって思っています。けど、やっぱり気持ちだけじゃダメなんだって……今回の試験で思い知らされました」
優れた薬剤師になりたいのであれば、気持ち以上に膨大な知識が伴っていなければならない。
これまで何となくでやって来たものとは訳が違う。
「……何より……私はここまで来るのに、たくさんの人たちに支えられてきました。それは、私がまだまだ未熟だからです」
膝の上でギュッと拳を作るエミリの心情は、きっといつものように自分の不甲斐なさを感じ、負い目に似たようなものを背負っているのかもしれない。
彼女は、そういうクセが付いてしまっているから。
「そうね。それで、その後は?」
エミリの言葉を否定することなく、再び追い討ちをかけるファティマは、エミリに何か試しているような目をしていた。
エミリは、それを察していた。だから絶対に動揺は見せない。
「……まだ、わかりません」
けれど、本心は絶対に隠さない。